各行政文書不開示処分取消請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、黒毛和種牛の預託等取引業を営み平成23年8月に経営破綻した株式会社A牧場(いわゆる「和牛オーナー制度」による消費者被害を生じさせた業者)に関連する行政文書について、控訴人が情報公開法に基づき消費者庁(処分行政庁)に2回にわたって開示請求をしたが、いずれについても同法5条所定の不開示情報が記録されているとして全部または一部を不開示とする決定がされたため、その取消しを求めた事案の控訴審である。 対象文書は、消費者庁の担当者(B課長、C審議官ら)が作成した、農林水産省によるA牧場への立入検査の経緯・結果、牛の市場価格と預託商品価格との乖離の検討、景品表示法違反の検討状況、A牧場問題について弁護士との意見交換メモ、D新聞社記者の取材対応メモ、自民党プロジェクトチーム(PT)の会議概要など、計10種類以上の文書である。消費者庁は、これらの文書の大半を、法人等の権利利益を害するおそれ(5条2号イ)、審議・検討情報(5条5号)、事務の適正な遂行を害するおそれ(5条6号イ)を理由に不開示とした。 原審・東京地裁は控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴した。控訴人は、原判決が文書の「一般的性質」のみから不開示情報該当性を判断したのは過度に抽象的で、情報公開法1条の行政の説明責任の趣旨や審査基準に反すると主張し、さらに個別の不開示部分についても開示の公益的必要性(国家賠償訴訟が提起されるなど、A牧場事件への消費者庁の対応の是非が国民の重大な関心事となっている点)を強調した。また、情報公開法6条1項に基づく部分開示を怠った違法も主張した。 【争点】 争点は大別して二つである。第一に、本件各不開示部分に記録されている情報が情報公開法5条2号イ、5号または6号イの不開示情報に該当するか。第二に、仮に不開示情報を含むとしても、同法6条1項により客観的事実等を分離して部分開示すべき義務を怠った違法があるか、すなわち「独立した一体的な情報」をどの範囲で捉えるかという点である。 【判旨】 東京高裁は控訴を棄却した。判断枠組みについて、情報公開法5条各号の「おそれ」の有無は、当該文書の個別具体的記載文言に即して判断することを要求すると、結果的に不開示情報自体の開示を強いることになり法の趣旨に反するから、どのような文書について、どのような経緯・目的で作成されたかといった一般的性質を踏まえて客観的に判断すれば足り、原判決の判断枠組みは審査基準とも齟齬しないとした。 個別の当てはめについても、弁護士との意見交換メモや自民党PT会議メモ(不開示部分4・13〜16)は、出席者の確認を経ていない要約であり、正確性の担保がないまま流布されれば弁護団・自民党等の社会的信用や自主的運営が害される蓋然性があると判断。新聞記者の取材対応メモ(不開示部分6)は、取材のノウハウ・方針が読み取れ報道の独自性を損なうおそれがあり、行政機関職員の回答内容も記者の質問を推測させるから全体が不開示情報に当たるとした。自民党調査会向け想定問答の検討メモ(不開示部分3)は、担当者が幹部指示を受けて作成した未成熟な検討過程であり、公表されれば同種事案で率直な意見交換が損なわれ、国民の間に無用の誤解や憶測を招くとして5条5号該当を認めた。立入検査や景表法違反の検討資料(不開示部分1・2・5・7〜12)は、預託法・景表法の執行上の着眼点やノウハウを含み、公開されれば将来の違反者が資料の隠蔽・虚偽作成等の対策を講じることが可能となり、執行事務の適正な遂行を害するおそれがあるとして5条6号イ該当を認めた。 部分開示義務については、情報公開法6条1項は「独立した一体的な情報」を細分化してまで開示を義務づけるものではなく、この単位は文書の目的・性質・内容等を総合考慮して社会通念に従って判断すべきと判示。控訴人が分離可能と主張する客観的事実(立入検査の日時・場所、牛の市場価格、A牧場の会計処理等)も、他の検討内容と相互参照して初めて意味を持つ全体として一体的な情報とみるべきであるとして、部分開示義務違反を否定した。本判決は、消費者行政における執行ノウハウの保護と情報公開法の説明責任理念との均衡について実務的指針を示したものである。