退去強制令書発付処分取消等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 アメリカ国籍を有する原告(1939年生まれ)は、和歌山県太地町で行われているイルカの追い込み漁に反対する活動を行う非営利団体の設立者であり、同町のイルカ漁を描いたドキュメンタリー映画にも出演している反イルカ漁運動の著名な活動家である。原告は、平成15年以降合計38回にわたり「短期滞在」の在留資格で本邦に入国し、イルカ漁の撮影やブログ掲載等の活動を行ってきた。 平成28年1月18日、原告は成田空港に到着して観光目的で上陸申請をしたが、成田空港支局特別審理官は、原告の活動内容の立証が不十分であるとして、出入国管理及び難民認定法(入管法)7条1項2号に掲げる上陸条件に適合しない旨の認定(本件不適合認定)を行った。これに対する原告の異議申出も法務大臣によって棄却され、主任審査官は入管法11条6項に基づく退去命令を発した。原告が出国便に搭乗しなかったため、入管法24条5号の2(退去命令違反)の退去強制事由に該当する旨の認定・判定・裁決がされ、退去強制令書発付処分を経て、原告は本邦から送還された。 原告は、一連の処分・裁決はいずれも違法であるとして、その取消しを求めて出訴した。 【争点】 第1に、原告が既に本邦から出国していることを前提に、各処分・裁決の取消しを求める訴えに訴えの利益があるかが争われた。第2に、本件不適合認定の時点で原告が「短期滞在」の在留資格に該当していたか、すなわち原告が活動内容について十分な立証を果たしていたかが実体面の中心的争点となった。被告は、前回入国時の原告の行動(前回口頭審理で述べなかった渋谷の反イルカ漁イベントに参加したこと、伊東市長から親善大使に任命されたとする虚偽情報をフェイスブックに掲載したこと、旅券不携帯の被疑事実で現行犯逮捕されたこと)を踏まえ、今次入国ではより具体的かつ網羅的な立証が必要であり、原告はシー・シェパードと関係を有し地域社会の安寧秩序を害するおそれがあると主張した。 【判旨】 裁判所は、訴えの利益について、退去強制令書発付処分は出国によって本来的効果を消滅したが、入管法5条9号ロにより5年間の上陸拒否事由となる付随的効果が残存するため取消しを求める利益があり、本件退去命令についても同様に、これを取り消さなければ令書発付処分の前提をなす退去強制事由該当性を覆すことができないから取消しの利益があるとした。他方、本件不適合認定・本件退命裁決・本件認定・本件判定・本件裁決については、出国後は上陸許可や在留特別許可が付与される余地がなく、退去強制令書発付処分の違法事由は本件退去命令の取消しをもって主張できる以上、併せて取消しを求める実益はないとして、各訴えを訴えの利益を欠き不適法として却下した。 実体判断では、原告の本件口頭審理における説明内容(イルカ漁を見て写真撮影やブログ掲載を行う活動)は「観光、見学その他これらに類似する活動」に該当し、滞在期間中のホテル予約・出国便予約・所持金等から信ぴょう性も相応に認められるとした。前回入国時の行動については、渋谷のイベント参加を秘匿する動機は認め難く、親善大使の投稿も意図的虚偽流布とはいえず、旅券不携帯逮捕も一回的事情にすぎないとして、今次入国の活動内容を疑わせる事情に当たらないと判断した。さらにシー・シェパードとの関係や迷惑行為の主張についても、これを裏付ける的確な証拠はなく、地域社会の安寧秩序を害するおそれがあるとは認められないとした。以上から、原告は「短期滞在」の在留資格該当性について立証を果たしていたと認め、本件不適合認定は違法と判断した。その結果、これを前提とする本件退去命令も違法となり、退去命令違反を理由とする退去強制事由該当性を前提とする本件退令発付処分もまた違法であるとして、両処分を取り消した。 本判決は、上陸審査における立証責任論、出国後の訴えの利益論、及び上陸手続と退去強制手続との関係論について、入管実務上重要な判示を行った事例である。