製造販売差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、コイルボビン式巻鉄心変圧器(WBトランス)の技術に関するライセンス契約をめぐる訴訟である。原告は、川鉄電設株式会社(現JFE電制)が平成6年頃に開発したWBトランスの事業を譲り受けた会社であり、近畿変成器工業会加盟のトランスメーカー17社との間で、設計・製造技術情報の供与とWBトランスの製造販売に関する基本契約を承継していた。契約ではイニシャルフィー(1社当たり100万円〜300万円)と販売額の3%に相当するランニングロイヤルティが取り決められていた。 WBトランスに関する原告の2件の特許権(コイルボビンおよび巻鉄心に関するもの)は平成27年3月31日に存続期間満了で消滅した。これを受けて被告ら17社は、契約の目的が達成不能となったとして同年4月以降のロイヤルティ支払を拒絶した。原告は、本件契約はノウハウライセンス契約であって特許消滅後もロイヤルティ支払義務は存続すると主張し、被告らの債務不履行を理由に契約を解除したうえで、平成27年4〜8月分の未払ロイヤルティ合計約1000万円の支払と、被告らの製品の製造販売差止・廃棄を求めて提訴した。後者の請求は、契約解除後の被告らの製造販売が不正競争防止法2条1項7号(営業秘密の不正使用)に当たるとの主張に基づくものである。 【争点】 主要な争点は、(1)本件各基本契約の法的性質が特許の実施許諾契約であるか、それとも特許と独立したノウハウライセンス契約であるか、(2)特許権消滅後もロイヤルティ支払義務が存続するか、(3)被告らがWBトランスを製造販売することが営業秘密の不正使用として不正競争行為に当たるか、の3点である。 【判旨】 請求をいずれも棄却した。裁判所は、まず契約の性質について、条項の体裁、締結に至る経緯、川鉄電設が工業会会員に対し特許の実施許諾を前提として情報提供・技術指導を付随的に行う旨案内していた事実等を総合すれば、本件各基本契約の中心は特許権の実施許諾であり、技術情報の提供はこれに付随するものと認定した。技術指導の大半が契約当初の軌道に乗るまでの時期に集中していた点も、ランニングロイヤルティが最長20年にわたり技術情報提供の対価として支払われたとみるのは不合理であることの根拠とした。そのうえで、特許消滅後もなお特許権存続中と同額のロイヤルティ支払を強制することは特許権の本質に反するとして、被告らのロイヤルティ支払義務は平成27年3月31日の特許消滅をもって終了したと判断した。 次に、不正競争行為該当性については、原告が開示した技術情報(電気設計書、巻線計画、温度上昇データ等)は、試作品から得られた実測値や計算値を整理したものが大半であり、巻鉄心の製造元への問合せ、カタログ値の参照、市場流通品に対するリバースエンジニアリング等により独自に取得可能な情報であると認定した。したがって、WBトランスが市場に出回った段階で本件技術情報は公知となり営業秘密性を失っており、契約終了後も被告らの製造販売を禁じる契約条項(第12条)は適用できないと判断した。 本判決は、特許とノウハウの双方を対象とし得るライセンス契約において、ロイヤルティの対価性をどのように評価し、特許満了後の契約関係を整理すべきかを示した事例として意義がある。とくに、特許消滅後も従前と同額の対価支払を課すことが独占禁止法上も問題となり得る点を踏まえ、契約実務においては特許満了時の処理を明確化しておく必要性を示唆するものといえる。