AI概要
【事案の概要】 本件は、沖縄県の米軍基地(キャンプ・シュワブ)に関連する国家賠償請求控訴事件である。控訴人は、平成28年4月1日、日米安保条約に基づき米軍に使用が許可され一般人の立入りが制限される区域に侵入したとして、米軍により身柄を確保された。その後、海上保安官に引き渡されるまで約8時間にわたり米軍による身柄拘束が続き、さらに引渡し後は刑特法(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法)12条2項に基づき、逮捕状の発付を受けることなく身柄拘束が継続された(本件緊急逮捕的身柄拘束)。 控訴人は、⑴海上保安官が米軍から引渡し通知を受けながら直ちに引渡しを受けなかったこと、米軍が直ちに海上保安官に引き渡さず、身柄拘束理由を告知せず弁護人との接見もさせなかったことが憲法33条等に反して違法であり、⑵刑特法12条2項の定める緊急逮捕類似の手続は憲法31条、33条に違反しており、これを立法して改廃を怠った国会の行為も違法であるなどと主張し、国家賠償法1条1項に基づき合計120万円の慰謝料等の支払を求めた。原審(那覇地裁)は合計8万円の限度で一部認容したため、控訴人が敗訴部分を不服として控訴した。 【争点】 主要な争点は、刑特法12条2項が定める、米軍からの身柄引渡しに際し逮捕状の発付なしに身柄拘束を継続する手続(緊急逮捕的身柄拘束)が、令状主義を定める憲法33条や刑事手続法規の明確性を要求する憲法31条に違反するか否かである。控訴人は、米軍による身柄拘束は日本国の主権外の行為であり、日本国が最初に主権を行使する時点では引渡対象者は現行犯人とはいえないから、その時点での司法審査が不可欠であるなどと主張した。 【判旨】 控訴棄却。憲法33条が現行犯逮捕を令状主義の例外として許容する趣旨は、犯罪と被逮捕者の結びつきが明白で司法審査を経なくても誤認逮捕のおそれがなく、その状況自体から逮捕の必要性・緊急性が高いといえる点にある。米軍による現行犯的身柄拘束もこの点で刑訴法上の現行犯逮捕と同様であり、当該身柄拘束がどの国の主権によってされたかによって結論は異ならない。したがって刑特法12条2項の緊急逮捕的身柄拘束は、少なくとも米軍により現行犯的身柄拘束を受けた者の引渡しに適用される限りにおいては、対象罪種が限定されていないことを考慮しても憲法33条の趣旨に反しない。また、同項は規定の文言上、米軍により現行犯的身柄拘束された者の引渡しに適用されることが明らかであるから、本件への適用に関して明確性に欠けることはなく、憲法31条違反もない。米軍の個別行為の違法性については、海上保安官の違法行為による損害と重なり合うため、慰謝料額に影響せず判断を要しないとして、8万円の限度で認容した原判決を維持した。