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【事案の概要】 兵庫県三木市の住民である原告ら4名が、三木市長等倫理条例に基づき当時の市長Eに対して審査請求を行ったにもかかわらず、市長が同条例所定の倫理審査会に付議せず、審査請求書や添付書類を原告側に返却した行為が国家賠償法上違法であるとして、精神的苦痛に対する慰謝料各100万円の支払を求めた事案である。 事の発端は、平成27年11月18日に開催された市幹部職員の懇親会2次会に、市から工事を受注する建設会社社長らが参加し、市長、副市長、教育長および部長級職員6名と共に飲食したことにある。この飲食が市長等倫理条例および職員倫理条例に違反する疑いがあるとして問題化し、E市長は当初、部長らは民間人の参加を事前に知らなかったと説明したが、後に参加予定者を知らせる事前メールの存在が発覚した。 原告らは有志の会を結成し、炎天下での署名活動により有権者約1900名(総数の50分の1以上)の連署を集め、平成28年11月18日、市長の倫理基準違反の疑いを指摘する審査請求書・署名簿・疎明資料を市役所に提出した。しかし市側は「預り証」を交付しつつ「受け付けたものではない」と表明し、同月25日、既にE自身が倫理責任を認めて給料減額処分を受けている以上、重ねて倫理審査会を開催する必要はないとの理由で、書類一式を原告代表者宅に返送した。 【争点】 第一に、本件不作為および返却が市長等倫理条例4条2項に違反する違法行為か。第二に、同条例が審査請求者個人の私的利益をも保護しているといえるか(国家賠償法上の保護法益性)。第三に、Eに故意または過失が認められるか。被告側は、条例は抽象的な市民全体の利益(公益)を保護する趣旨に過ぎず、審査請求者の私的利益は保護対象外であるうえ、E自身が既に倫理違反を認めて処分を受けている以上、改めて審査会を開催する必要はないとの判断に違法性はないと反論した。 【判旨】 神戸地裁は、原告らの請求を一部認容し、各10万円の支払を命じた。 まず、市長等倫理条例は原則として市長等の自覚・自主規制と説明責任によって倫理の保持を図るが、有権者総数の50分の1以上の連署を要件とする倫理審査請求制度は、住民が行政過程に関与して行政を監視する性格を有し、これは地方自治法上の直接請求と同等の連署要件を課していることからも裏付けられるとした。そして、条例所定の連署を集めて審査請求を行った市民には、条例および施行規則に従った適正な手続を受けられることへの合理的期待が生じており、これは法律上の権利利益として客観的に把握し得る明確性を有するため、国家賠償法上も保護されるべき権利利益に当たると判示した。 また、審査請求書の提出は三木市行政手続条例2条1項7号にいう「届出」の性質を有し、形式的要件が充足されていれば被告事務所に到達した時点で手続上の義務が履行されたものとなる。市長には内容的要件の審査権限はなく、審査の必要性を判断して受付を留保したり書類を返戻したりする権限は条例上認められていない。したがって、市長が審査の必要がないとの独自の判断で本件各書類を受け付けず返却した一連の行為は、原告らに対する職務上の法的義務に違反する違法行為であり、Eには少なくとも過失があるとした。 損害については、原告らが約1900名の署名を集めた労苦にもかかわらず適正な手続への合理的期待を裏切られた精神的苦痛に対し、慰謝料各9万円および弁護士費用各1万円を認めた。被告の「Eが自ら倫理責任を認め辞職したことで審査請求の目的は達成されている」との主張については、本件で侵害された利益はあくまで適正な手続を受けることへの合理的期待であり、事後の辞職等はその精神的苦痛を左右するものではないとして斥けた。