鳴門市競艇従事員共済会への補助金違法支出損害賠償等請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成29行ヒ423
- 事件名
- 鳴門市競艇従事員共済会への補助金違法支出損害賠償等請求事件
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判年月日
- 2019年10月17日
- 裁判種別・結果
- 判決・その他
- 裁判官
- 深山卓也、池上政幸、小池裕、木澤克之、山口厚
- 原審裁判所
- 高松高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 鳴門市では、モーターボート競走法に基づく競艇事業を地方公営企業として運営しており、レース開催日のみ日々雇用される「臨時従事員」を多数抱えていた。昭和40年頃に臨時従事員の労働組合と市との間で労働協約が結ばれて以降、臨時従事員が離職する際には、市企業局職員等で構成される「鳴門競艇従事員共済会」から「離職せん別金」が支給される運用が長年続いていた。もっとも、市の条例上、臨時従事員に対する退職手当や離職せん別金の支給根拠は存在せず、全国24競走場のうち条例で制度化しているのはわずか1〜2場にとどまっていた。 市は毎年度、共済会に対し離職せん別金に充てる補助金を交付しており、平成22年7月にも企業局長Cが約1億457万円(本件補助金)の交付決定をし、共済会はこれを原資(約97%)として離職せん別金を支給した。なお、この補助金の交付申請をした共済会会長は、企業局次長Aが規約上自動的に兼務する立場であった。 市住民らは、本件補助金の交付は地方公営企業法38条4項の給与条例主義に違反する違法な財務会計行為であるとして、地方自治法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟を提起し、当時の市長B、企業局長C、企業局次長Aに対する損害賠償請求を市に行うよう求めた。 第1次上告審(平成28年最高裁判決)は、本件補助金の交付は給与条例主義を潜脱する違法なものと判断して差戻し、原審(差戻控訴審)は3名全員の賠償責任を認めた。 【争点】 給与条例主義に違反する違法な補助金支出について、(1)予算を調製した市長、(2)交付決定をした企業局長、(3)交付決定の決裁に関与し共済会会長でもあった企業局次長の各人が、それぞれ不法行為に基づく損害賠償責任を負うかが争われた。 【判旨】 最高裁は、企業局長Cについてのみ責任を認め、市長Bと企業局次長Aの責任は否定した。 まず市長Bについては、地方公営企業法上、業務執行権限は原則として管理者(企業局長)に委ねられ、長の一般的指揮監督権は排除されているから、長は企業局長が作成した予算原案を尊重して予算を調製することが予定されている。本件予算の項目や明細から違法性が明らかでなかった上、実際に補助金を交付するか否かは企業局長の決定による以上、予算調製と補助金交付との間に直接の関係はなく、長の損害賠償責任は認められないとした。 これに対し企業局長Cについては、業務執行の適正を確保すべき地位にあり、(ア)臨時的任用の従事員に退職手当支給義務はないとの行政実例の存在、(イ)総務省からの改善指導、(ウ)市議会委員会での繰り返しの問題指摘、(エ)補助金が離職せん別金原資の97%を占め、実質的に退職手当の迂回支給と評価されても仕方ない形式内容であったこと等を総合すると、適法性を確認すれば条例上の根拠がないことを認識可能であったとして、注意義務違反による過失責任を認めた。 企業局次長Aについては、補助金交付決定権限を有しておらず、補助者の立場にすぎないこと、共済会会長の兼務は規約上の帰結にすぎず違法性を認識しながら交付申請したといった事情もないことから、交付決定に関与したことを理由に損害賠償責任を負うとはいえないとした。また、Aに対し「当該職員」としての損害賠償請求をする請求は、本件交付決定の決裁関与が地方自治法242条1項の財務会計行為に当たらないため、訴え自体が不適法として却下された。 【補足意見】 池上政幸裁判官は、企業局長Cの責任を認める法廷意見に賛同しつつ、Cの帰責性について補足した。臨時従事員への離職せん別金支給は条例上予定されておらず、これと抵触する労働協約は地方公営企業等の労働関係に関する法律8条4項により条例改正まで効力を有しないが、総務省等からこの点について明確な見解は示されておらず、長年維持されてきた協約が無効と認識することが容易とはいい難い状況にあった。市企業局は組織として離職せん別金補助金を繰り返し交付し、市議会も予算議決や決算認定を行っていたこと、Cが私利を図ったものでなく違法性の認識もなかったこと等からすれば、長年の組織運用上の誤りについてC個人に賠償責任を追及するには酷な面があり、今後の責任追及には相応の配慮が望まれる、とした。