AI概要
【事案の概要】 本件は、健康食品「仙三七」をめぐる商標登録無効審判の審決取消訴訟である。被告(日本薬食株式会社)は、中国雲南省で栽培される三七人参を原材料とした健康食品を製造し、平成11年頃から原告(株式会社ベネセーレ)に独占的に卸売りしてきた。被告は平成16年に「仙三七」の商標(指定商品は第29類の食品類)を登録し、同年3月、原告との間で「商標使用許諾に関する覚書」を締結した。覚書では、被告が原告に対し「仙三七」商標を永続的・独占的に無償で使用許諾すること、第三者侵害には協力して対処すること、信義に基づいて履行することなどが定められていた。 ところが原告は、平成28年春頃から被告に株式譲渡や商標譲渡を持ちかけたものの被告が応じなかったため、被告商標の指定商品にサプリメントが含まれていない可能性に気づいた上で、これを被告に告げないまま、平成28年10月14日、第5類「サプリメント」を指定商品として「仙三七」商標を自ら登録出願し、平成29年3月に登録を受けた(本件商標)。原告は本件商標登録後の平成29年8月になって初めて被告に登録の事実を告知するとともに取引終了を申し入れ、別ブランドでの独自生産に切り替えた。被告の無効審判請求を受けた特許庁は、本件商標が商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当するとして登録無効の審決をしたため、原告が審決取消しを求めて本件訴訟を提起した。 【争点】 原告による本件商標の登録出願が、商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当し、健全な商道徳に反して著しく社会的妥当性を欠く行為といえるかが争われた。原告は、「仙三七」ブランドの業務上の信用は自社の営業努力と投資により築かれたこと、被告商標は本件被告商品を保護していなかったことなどを理由に、本件商標は原告に帰属すべきものであり剽窃には当たらないと主張した。 【判旨】 知財高裁は、請求を棄却し、審決を維持した。裁判所はまず、商標法4条1項7号には健全な商道徳に反し著しく社会的妥当性を欠く出願行為に係る商標も含まれると解した上で、原告と被告の約18年にわたる独占的取引関係及び本件覚書の内容(第5条の侵害排除協力、第7条の信義誠実履行条項等)に照らすと、原告は被告が「仙三七」商標権者として当該商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない信義則上の義務を負っていたと認定した。 その上で裁判所は、原告が被告商標の指定商品にサプリメントが含まれない可能性を認識しながら被告に告知せず、秘匿したまま自ら本件商標を出願・取得したこと、登録後4か月以上経過してから取引終了を一方的に申し入れたこと、出願時点で既に第三者から競合品を調達する段取りを整えていたことなどを指摘し、原告の行為は「仙三七」ブランドの利益を独占し、他商品の取引交渉を有利に進めるため計画的に行われたものと評価した。 原告の「商標の信用は自らの努力で形成された」との主張については、あくまで被告の許諾を基盤として形成された信用にすぎず、原告を権利者とする根拠にはならないと退けた。被告商標が本件被告商品を保護していなかったという主張についても、その場合こそ覚書第7条に基づき誠意をもって解決すべきであり、抜け駆け的に自ら商標登録することは許されず、先願主義をそのまま適用すれば当事者間の衡平を著しく欠くと判断した。 以上により、本件商標の出願行為は信義則上の義務違反にとどまらず、健全な商道徳に反し著しく社会的妥当性を欠くものであり、商標法4条1項7号に該当するとして、登録を無効とした審決の判断に誤りはないと結論づけた。本判決は、継続的取引関係における代理店・販売店による「冒認的」商標出願を公序良俗違反として無効とする判断枠組みを示した事例として、実務上重要な意義を有する。