特許権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 薪ストーブ・煙突の販売等を業とする原告(株式会社上野商店)が、輸入暖炉薪ストーブの販売及び煙突取付工事を業とする被告に対し、被告が原告の有する「屋根煙突貫通部の施工方法及び屋根煙突貫通部の防水構造」に関する特許権(特許第5047754号、出願日平成19年10月19日、登録日平成24年7月27日)を侵害しているとして、特許法100条1項に基づく施工方法の使用及び製品の製造の差止めと、特許法102条2項等に基づく損害賠償金4752万円等の支払を求めた事案である。 本件特許は、煙突を屋根抜き方式で施工する際の雨漏りを防ぐため、水切り手段を外部水切り部材(アウターフラッシング)と内部水切り部材(インナーフラッシング)の二部材に分け、内部水切り部材の固定板を野地板又は防水シート上に密着させて固定することにより、過剰な手間やコストを要することなく優れた防水機能を長期間発揮できるようにした発明である。被告方法・製品が各構成要件を充足すること自体は争われず、専ら被告の無効主張(特許法104条の3)が審理された。 【争点】 主たる争点は、本件特許出願日より前の平成19年6月28日に被告が施工した横浜市内のA邸工事が公然実施に該当し、本件各発明の新規性・進歩性を失わせるかであった。原告は、被告が提出した図面・写真の電子データは日付改変が容易で公然実施の事実自体が立証されていないと争うとともに、A邸工事ではインナーフラッシングの固定板の軒側に防水テープが貼付されておらず、「封止する状態にして固定」及び「固定板外周に沿って防水テープが貼付されている」との構成要件を充足しないと主張した。 【判旨】 裁判所は、被告が保管していた顧客管理資料、図面の電子データ更新日、工事写真、住友林業への送信記録等を総合し、平成19年6月28日にA邸において外部から遮るもののない状況下でインナーフラッシング及びアウターフラッシングを用いた屋根煙突貫通部の施工が公然と行われた事実を認定した。構成要件D等にいう「封止する状態にして固定」とは、固定板下面と野地板等を液体が開口部に侵入しない程度に密着させて固定する状態を指すと解し、A邸工事はこれを充足するから本件発明1及び3は新規性を欠くとした。 他方、構成要件F等の「固定板外周に沿って防水テープが貼付されている」とは固定板外周全体への貼付を意味すると解したうえで、A邸工事では軒側の一辺に防水テープが貼付されていない点で相違が認められるが、固定板の一辺が約40cm程度でコスト・工数の負担もわずかであることから、三辺に貼付している防水テープを軒側にも貼付することは当業者が容易に想到し得たものであり阻害要因もないとして、本件発明2及び4は進歩性を欠くと判断した。 以上より、本件各発明はいずれも特許無効審判により無効にされるべきものであるから(特許法104条の3)、その余の争点(先使用権、請求権放棄、損害額)について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも棄却された。本判決は、過去の工事が公然実施に当たるかを判断するに際し、顧客管理資料や電子データの更新履歴、第三者への送信記録等を総合して施工時期・内容の信用性を認めた事例として実務的意義を有する。