特許権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法及び物質」とする特許(特許第5215250号)の特許権者であるドイツ法人の原告が、被告積水メディカル株式会社に対し、被告製品(ラピッドピア、ラピッドチップPCT、ラピッドチップ用PCTコントロール)の製造販売等の差止め、製品の廃棄、および損害賠償金1500万円の支払を求めた特許権侵害差止等請求事件である。 本件特許の請求項1は「患者の血清中でプロカルシトニン3-116を測定することを含む、敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」である。プロカルシトニン3-116とは、従来知られていた完全長のプロカルシトニン1-116からアミノ末端のジペプチドが欠落した、114アミノ酸からなるペプチドである。原告は、敗血症患者の血中で高濃度に検出されるプロカルシトニンは従来考えられていた1-116ではなく3-116であることを発見し、これを敗血症等のマーカーとして用いる診断方法につき特許を取得した。 被告製品は、検体中のプロカルシトニンを検出して敗血症等の診断に用いるものであるが、その測定方式ではプロカルシトニン1-116と3-116を区別することができず、両者を合算した形でプロカルシトニン全般の濃度を測定するものであった。原告は、被告方法が本件発明の技術的範囲に属するとして、被告装置・被告コントロールについて特許法101条の間接侵害が成立すると主張した。 【争点】 主たる争点は、被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか、特に構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定する」との文言の解釈である。原告は、プロカルシトニン3-116を1-116と区別して特異的・選択的に測定することは必須でなく、敗血症患者の血中で増加するプロカルシトニンの大部分は3-116であるから、プロカルシトニン一般を測定すれば事実上3-116を測定していることになると主張した。これに対し被告は、「測定」とは対象物を他の物と区別して量を測ることを意味するから、プロカルシトニン3-116を1-116と区別して特異的・選択的に測定することが必要であり、両者を区別できない被告方法は構成要件を充足しないと反論した。その他、被告装置・コントロールについての間接侵害の成否、各種公知文献による新規性・進歩性欠如の抗弁、実施可能要件違反、産業上利用可能性欠如も争点となった。 【判旨】 東京地裁は、原告の請求をいずれも棄却した。 裁判所は、「測定」の一般的意義(種々の量を器具や装置を用いてはかること)に照らすと、構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定すること」とは、血清中に含まれるプロカルシトニン3-116の量を明らかにすることを意味すると解するのが自然であるとした。本件発明は、敗血症患者の血清中で高濃度に検出されるプロカルシトニンが1-116ではなく3-116であるとの発見に基づく新規な診断方法の提供を目的とするものであるから、この発見に基づき3-116の量を明らかにし、その測定結果が敗血症等の検出に用いられることを要すると判示した。 その上で、被告装置および被告キットを使用しても、プロカルシトニン1-116と3-116を区別することなく両者を含むプロカルシトニン全般の濃度を測定するにとどまり、プロカルシトニン3-116の量が明らかにされているとは認められないから、被告方法は構成要件Aを充足しないと結論付けた。原告が主張する「敗血症患者の血清中のプロカルシトニンの大部分は3-116であるから、プロカルシトニン一般を測定すれば3-116を測定したことになる」との主張についても、プロカルシトニン3-116を測定することとプロカルシトニン一般を測定することは同義とはいえず、敗血症等罹患の有無が不明な患者については血清中プロカルシトニンの大部分が3-116であるかは明らかでないとして退けた。以上により、被告方法は本件発明の技術的範囲に属するとは認められず、その余の争点(間接侵害、無効抗弁、損害)について判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がないとして棄却された。