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【事案の概要】 本件は、神戸市交通局の路線バス運転手であった被告人が、業務として大型路線バスを運転中に引き起こした過失運転致死傷事件である。平成▲年▲月▲日午後2時2分頃、被告人は神戸市内の歩行者用信号機が設置された横断歩道の北側付近道路において、停留所から自車を発進させた直後、対面信号機の赤色表示に従って停止させるためブレーキペダルを踏もうとしたものの、誤ってアクセルペダルを踏み続けた。車両が前進したことに狼狽した被告人は、さらにアクセルペダルを強く踏み込んだため、バスは暴走し、青信号に従って横断歩道を渡っていた歩行者6名に次々と衝突した。その結果、20歳と23歳の若者2名が大動脈峡部裂傷や胸腹膜腔出血などにより死亡し、他の4名も加療約1年3か月を要する左下腿開放骨折を含む傷害を負った。事故現場は交通機関が集中した神戸市街地で、発進地点から横断歩道までわずか10メートル程度しか離れていない、特に注意を要する場所であった。 【判旨(量刑)】 神戸地裁は、被告人を禁錮3年6か月の実刑に処した(求刑禁錮5年)。判決は、赤信号に従い横断歩道手前で停止する際にブレーキを的確に操作する義務は自動車運転手にとって最も基本的かつ重要な注意義務であり、多くの人命を預かる職業運転手が大型バスを運転していたこと、市街地の交通量の多い場所であったことを踏まえると、被告人の過失の程度は相当に重大であり厳しい非難を免れないとした。青信号で横断していた被害者らに落ち度はなく、将来ある若者2名の命が突如奪われた無念と遺族の深い悲しみ、重篤な傷害を負った被害者らの肉体的・精神的苦痛、公共交通機関である市営バスが白昼に横断歩道に突入した事故が社会に与えた衝撃の大きさも指摘し、刑事責任は相当に重いと判断した。他方で、本件過失は無免許・酒気帯び・速度超過といった交通三悪や居眠り・携帯電話使用などの違反を伴うものではなく、ペダル踏み間違いから衝突までの時間がごく短く、被告人がサイドブレーキを操作するなど衝突回避の行動をとっていたことから、過失が特に悪質とまではいえないと評価した。また、事故直後に119番通報するなど事故後の対応に非難すべき点はなく、検察官が指摘した交通違反歴等も本件事故を招いたとは評価できないとした。これらに加え、被告人が犯行を認め反省と謝罪の弁を述べていること、自動車保険による適切な賠償が見込まれること、罰金前科以外に前科がないこと、免許取消処分を受け二度と運転しない旨述べていることを考慮した。結論として、執行猶予を付すべき情状ではなく実刑はやむを得ないとしつつ、上記諸事情を刑期の面で斟酌し、主文のとおりの刑を言い渡した。