選挙無効請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 令和元年7月21日に施行された参議院議員通常選挙について、東京都・茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・神奈川県・新潟県・山梨県・長野県・静岡県の各選挙区の選挙人である原告らが、平成30年改正後の公職選挙法14条1項及び別表第3の定数配分規定が人口比例に基づかず憲法に違反すると主張し、公職選挙法204条に基づき各選挙区の選挙無効を求めた事案である。参議院議員選挙の定数配分をめぐっては、昭和58年大法廷判決以来、最高裁は選挙区間の投票価値の較差の合憲性を繰り返し審査してきた。平成24年・26年大法廷判決は、長年5倍前後で推移してきた較差は違憲状態にあり、都道府県を単位とする選挙区割りの仕組み自体の見直しを含む立法措置を速やかに講ずるべきと指摘した。これを受けて平成27年改正では鳥取・島根、徳島・高知の2つの合区が史上初めて導入され、最大較差は2.97倍まで縮小し、平成29年大法廷判決はこれを違憲状態ではないと判断した。平成30年改正は、合区の範囲は維持しつつ埼玉県選挙区の定数を2人増員し、比例代表に特定枠を設ける内容で、本件選挙時の最大較差は福井県対宮城県で3.00倍となった。 【争点】 本件定数配分規定の下での選挙区間の投票価値の不均衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたか否か、仮に違憲状態に至っていた場合、本件選挙までの期間内に是正されなかったことが国会の裁量権の限界を超えるかが争点となった。原告らは、憲法前文・1条・56条2項は人口比例選挙を要求しており、平成30年改正法は平成27年改正法附則7条の「抜本的な見直し」を遵守しておらず、「更なる是正の方向性と立法府の決意」が欠如していると主張した。また、参議院議員選挙であること自体から投票価値の平等の要請が後退する理由はないとし、較差是正に関する要素を第1段階審査に先取りして考慮する平成29年大法廷判決の判断枠組みは従前の判例に反すると論じた。被告側は、参議院の独自性や二院制の趣旨、定数の偶数配分という技術的制約を踏まえれば、3.00倍の較差は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていないと反論した。 【判旨】 東京高裁は請求をいずれも棄却した。裁判所は、平成29年大法廷判決の示した基本的判断枠組みを踏襲し、投票価値の平等は選挙制度を決定する唯一絶対の基準ではなく、国会が考慮できる他の政策的目的との関連で調和的に実現されるべきものであると述べた。二院制の下で参議院に独自の機能を発揮させるため、都道府県という政治的まとまりの意義や実体を選挙制度の一要素として考慮することは、投票価値の平等との調和が保たれる限り国会の合理的裁量の範囲内である。平成30年改正法については、平成27年改正法附則7条にいう「抜本的な見直し」には当たらないとする原告らの指摘には耳を傾けるべきものがあるとしつつも、合区を維持しつつ埼玉県の定数を増員して較差を平成28年選挙時の3.08倍から3.00倍へわずかながら縮小させたことは、立法府が平成24年以来の一連の大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図り、再び従前のような大きな較差を生じさせない配慮を継続していると評価できるとした。また参議院倫選特の附帯決議によって今後の選挙制度改革の検討継続が表明されており、更なる是正に向けての立法府の決意も継続しているとし、本件選挙当時の投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態には至っていないと結論づけた。