AI概要
【事案の概要】 本件は、「エアゾール装置」及び「噴出ノズル管の製造方法並びにその方法により製造される噴出ノズル管」に係る2件の特許権を有する原告(発明者個人)が、自身が設立した被告会社及びその代表清算人である被告Cに対し、不正競争防止法2条1項15号の信用棄損行為に基づく損害賠償として、連帯して3375万6000円余の支払を求めた事案である。 被告会社は、自動車用燃焼室クリーナーの開発・販売を目的として平成19年に原告、被告C、訴外Bの3名を出資者として設立された会社であり、原告が代表取締役を務めていた。訴外日本オイル及び訴外NUTECは、被告会社と協働して燃焼室クリーナーを開発し、平成22年頃から「NC901」及び「PITWORK エンジンリフレッシュ」の販売を開始した。原告は平成25年2月、訴外日本オイルとの間で本件エアゾール装置の特許について専用実施権設定契約を締結し、販売本数1本当たり150円のライセンス料を受け取る立場となった。 他方、被告会社は平成25年7月に解散して清算手続に入り、被告Cが代表清算人に就任した。被告C及び訴外Bは、本件ノズル管の特許は本来被告会社に帰属すべきものであるとして、平成25年5月から平成26年9月にかけて3回にわたり、訴外日本オイルに対して、被告会社が本件特許を「保有する」「帰属する」などと記載した通知書を送付した(本件各通告行為)。原告はこれらが虚偽事実の告知に当たるとして本訴を提起した。 【争点】 主要な争点は、(1)本件各通告行為が「営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する」信用棄損行為に該当するか、(2)本件各通告行為と損害発生との間に因果関係が認められるか、(3)被告会社の故意過失、被告Cの悪意重過失による任務懈怠の有無、(4)消滅時効の成否の各点である。 【判旨】 請求棄却。 裁判所はまず、本件各通知書の「被告会社に帰属する」「当社の保有する特許」との記載は、被告会社が本件両特許の特許権者であると告知するものであり、真の特許権者は原告であった以上、虚偽の事実の告知に当たると認定した。被告らは被告会社が独占的通常実施権を有していた旨主張したが、通知書の文言上そのようには読み取れず、かつ独占的通常実施権設定の事実を認めるに足りる証拠もないとして排斥された。また、第2通告行為について正当な権利行使による違法性阻却の主張も、客観的権利関係と異なる虚偽事実を真実と信じる相当な理由が認められないとして斥けられた。 もっとも、裁判所は損害との因果関係を否定した。すなわち、訴外日本オイルは各通告行為の直後に原告代理人弁護士に問い合わせ、説明に納得した上で販売を継続しており、原告本人に直接説明を求めることもなかった。本件各通告行為前後の販売本数を3か月単位で比較すると、むしろ増加している時期が多く、販売本数の有意な減少は認められない。さらに、第2通告行為後の平成26年1月には専用実施権設定契約の対象製品を追加する合意がなされ、平成30年3月には同契約が従前と同じライセンス料で更新されていることからも、原告と訴外日本オイル間の信頼関係が損なわれた事実は認められない。契約更新時の条件変更要求も、訴外日本オイル側のメールで「別事案」と明記されており、外部環境要因の変化に基づくものと認定された。 以上より、本件各通告行為は信用棄損行為に該当し得るものの、原告主張の逸失利益(販売減少分)との間に因果関係は存しないとして、その余の争点を判断するまでもなく請求は全部棄却された。特許権者と独占的実施権者をめぐる内部紛争が第三者たる取引先へ通知された事案であり、信用棄損行為の成否と損害立証の困難性を示す実務上参考となる事例である。