AI概要
【事案の概要】 国立大学法人である原告が運営するA大学大学院薬学研究科の教授であった被告が、原告の管理する研究費を用いて、試験試薬の製造・販売等を業とする株式会社Cとの間で架空取引を行い、代金名目でCに資金を支出させて「預け金」を形成したとして、原告が被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として1億5195万6610円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 預け金とは、業者に架空取引を指示し、契約した物品が納入されていないのに納入されたとして代金を支払い、支払金を当該業者に管理させる処理をいう。被告は平成14年5月以降A大学教授を務めていたが、平成16年11月頃から准教授であったBに依頼してCへの預け金処理を継続させ、原告が管理する科学研究費補助金、受託研究費、COE補助金、寄附金、運営費交付金等を原資として、平成17年2月から平成21年4月までの間に合計1億5195万6610円の預け金を形成した。被告は本件に関連して収賄罪で起訴され、懲役1年8月の有罪判決が確定している。 【争点】 争点は、被告がした預け金の期間及び額、預け金形成行為の違法性の有無、因果関係と損害の有無及び額、過失相殺の可否である。被告は、平成20年4月以降は研究費繰越制度の整備により預け金を指示していないと主張し、また科研費の直接経費は研究者個人に帰属するから原告に損害はなく、預け金は単年度主義等による制度上の不備に対応するためのやむを得ない措置で違法性を欠くと反論した。さらに、原告がCに対する反面調査を怠ったとして過失相殺を主張した。 【判旨】 京都地方裁判所は原告の請求を全部認容し、被告に対し1億5195万6610円及び平成24年5月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命じた。 判決は、まず各研究費の帰属について、受託研究費等、COE補助金、寄附金、運営費交付金はいずれも原告に帰属するとし、科研費の直接経費についても、適正な管理を必須とする補助金制度の仕組みからみて、研究機関の預金口座に振り込まれた金員は預金債権として研究機関に帰属し、研究者は適正な手続を経て払出しを受ける権利を有するにとどまり、架空売上げによる不当な払出しを受ける権利はないと判断した。 違法性については、平成10年以前から預け金に関する返還命令等が複数の大学で行われており、文部科学省も平成18年に「研究費の不正対策検討会報告書」を公表していたこと、被告の預け金残高は予算月額の12倍に相当する約1億8000万円に達し、研究費確保の非常措置としては過大であったこと、Cの倒産により約1億8000万円の回収が事実上不能となったこと等から、形式的なルール違反にとどまらず弊害が具体化したものとして違法と認定した。 過失相殺についても、原告には特段の調査権限がなく、文部科学省公表後も原告は合理的な調査を行っていたとして、被告及びCから不適切な経理がない旨の虚偽の回答を受けていた以上、原告に過失はないと判断した。