職務発明対価請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、被告会社の元従業員である原告が、在職中に関与した「球形で粒度分布の狭いマグネシウムアルコラートの合成方法」に関する特許発明(本件発明)について、特許を受ける権利を被告に承継させたとして、旧特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を求めた事案である。 本件特許は、平成元年8月16日に出願され、平成7年12月8日に登録された(存続期間は平成21年8月16日に満了)。発明者は原告を含む3名と記載されている。被告は、本件発明を実施した触媒担体「CMG-100S」(被告旧製品)を平成元年11月頃から東邦チタニウム社に出荷していたが、平成5年末に製造・販売を中止し、平成6年2月には改良品である「CMG-100B」(被告新製品)を完成させ、現在に至るまで販売が続いている。 被告の発明考案取扱規則(被告規則)9条は、権利承継時および特許登録時に定額の譲渡補償金を支給する旨を定め、同10条は、会社が発明の実施等により相当の利益を得たときに褒賞金を支給することがある旨を定めている。原告は9条に基づく譲渡補償金は受領済みであったが、10条に基づく実績補償(褒賞金)として、平成20年度および平成21年度の2年分の売上高を基礎に806万4000円のうち300万円の支払を求めた。 これに対し被告は、消滅時効を援用するとともに、被告新製品は被告旧製品の性能不足を補うため独自に改良されたものであり、原告は被告新製品の開発に関与していないと反論した。 【争点】 主な争点は、(1)被告新製品が本件発明の実施品であるか、(2)相当の対価の額、(3)消滅時効の成否、の3点であるが、裁判所は事案に鑑み争点(3)から判断した。争点(3)の核心は、被告規則10条に基づく褒賞金請求権の消滅時効の起算点をいつと解するかという点である。被告は特許出願時または遅くとも登録時を起算点と主張し、原告は同条には支払時期の定めがなく、毎年4月1日が支払時期であるから平成20年度・21年度分は時効未完成と主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を棄却した。 特許法35条3項に基づく相当の対価請求権は、原則として特許を受ける権利の承継時から時効が進行するが、勤務規則等に支払時期の定めがある場合にはその支払時期が起算点となる(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決参照)と判示した。 そのうえで、被告規則10条は「発明の実施又は実施権の許諾により相当の利益を得たとき」に褒賞金を支給することがあると規定するのみで、一義的に明確な支払時期の定めはないが、同条の文言からすれば、発明が実施又は実施許諾された場合には褒賞金請求権の行使が可能になるといえるから、支払時期は「特許権の設定登録時又はその実施若しくは実施許諾時のうちいずれか遅い時点」と解するのが相当であるとした。 原告主張の「毎年4月1日説」については、被告規則の文言上そのように解することはできず、被告にそのような慣行や支払実態があったとも認められないとして排斥した。 本件では、本件特許の登録日は平成7年12月8日であり、被告は平成元年11月頃から本件発明の実施品である被告旧製品を継続的に出荷していたから、支払時期は登録日である平成7年12月8日となる。その翌日である平成7年12月9日から10年を経過した平成17年12月8日の経過をもって消滅時効が完成したと認定し、被告の時効援用により本件対価請求権は時効消滅したと結論づけた。 したがって、争点1および争点2について判断するまでもなく、原告の請求には理由がないとして棄却された。