AI概要
【事案の概要】 本件は、原告らが、平成26年7月1日の「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定、及び平成27年9月19日に成立した平和安全法制整備法・国際平和支援法(平和安全法制関連2法)に関する一連の行為(法案の閣議決定、国会への提出、立法行為、以下「本件各行為」という。)が、憲法前文、9条、96条1項に違反して違憲違法であると主張した事案である。 また、これらの法制に基づく駆け付け警護任務が付与された自衛隊部隊の南スーダン共和国への派遣、及び海上自衛隊護衛艦による米海軍艦船の武器等防護の実施も、同じく違憲違法であると主張された。 原告らは、本件各行為及びその実施により、平和的生存権、人格権、憲法改正・決定権が侵害され、精神的苦痛を被ったと主張し、被告(国)に対し、国家賠償法1条1項に基づき、原告ら一人当たり慰謝料10万円及び遅延損害金の支払を求めた。原告らには、戦争被害体験者、米軍・自衛隊基地周辺居住者、憲法学者、教員、障がい者、母親など、様々な立場の者が含まれていた。 【争点】 (1) 本件各行為(閣議決定、法案提出、立法行為)が憲法9条等に違反し、国賠法1条1項において違法とされるか (2) 駆け付け警護任務付与及び武器等防護の実施が憲法9条等に違反し、国賠法1条1項において違法とされるか (3) 原告らに損害賠償の対象となる権利ないし法的利益の侵害が認められるか 【判旨】 東京地方裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却した。 まず、平和的生存権については、憲法前文は憲法の基本的精神・理念を表明したものにとどまり、それ自体が具体的権利を賦与したものとは解し難いとした。「平和」は抽象的概念であり、これを確保する手段・方法も国際情勢に応じて多岐多様にわたるため、「平和のうちに生存する権利」から裁判規範となる具体的意味内容を確定することは困難であるとした。また、憲法9条は国家の統治機構に関する規範であって国民の私法上の権利を直接保障したものではなく、憲法13条によっても平和的生存権が具体的権利として賦与されたとはいえないと判示した。 人格権については、本件各行為は立法行為及び閣議決定であってそれ自体が原告らの生命・身体の安全に危険をもたらす行為とはいえず、口頭弁論終結時において我が国が他国から武力行使の対象とされているとは認められないから、原告らの生命・身体の安全が侵害される具体的危険が発生したとは認め難いとした。原告らが戦争やテロ攻撃への恐怖・不安を抱いていることは認められるものの、それは憲法解釈を共通にする国民一般に広く生じ得る恐怖・不安、あるいは公憤・義憤であり、社会通念上受忍すべき限度を超える深刻なものとはいえず、法的保護に値する利益とは認められないとした。 憲法改正・決定権についても、憲法96条1項は国会による発議と国民投票による承認の手続を定めたものであって、特定の問題に関する憲法改正の発議の有無につき個々の国民に権利・法的利益を保障する趣旨とは解し難いとした。原告らの主張を認めれば、実質的に抽象的な違憲・違法判断を求める訴訟を許容する結果となるとして退けた。 駆け付け警護の任務付与及び武器等防護の実施についても、同様の理由から、原告らの権利・法的利益が侵害されたとは認められないとした。 さらに、憲法判断については、付随的違憲審査制が採用されている以上、損害賠償により法的保護を与えられるべき利益が存在しない本件では、相関関係論に立って違法性を判断する必要はないとして、本件各行為の合憲性についての判断を回避した。