AI概要
【事案の概要】 被告人は、一人暮らしをしていた母親(当時70歳)の身の回りの世話に当たっていた。平成30年12月30日の昼頃、北海道岩見沢市内の被害者方において、殺意をもって被害者の頸部をドライヤーの電源コードで絞め付け、頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した。本件の争点は、被告人が犯行当時、アルコール依存症及び酩酊により心神耗弱状態にあった疑いがあるか否かである。検察官は懲役12年を求刑した。 【争点】 弁護人は、被告人が本件犯行時、アルコール依存症及び酩酊のため、善悪を判断し、これに従って行動を制御する能力が著しく弱くなっていた状態(心神耗弱)にあった疑いがあると主張した。具体的には、犯行前後に異常な電話や電子メールを送信するなどの異常行動を繰り返していた点、日頃おとなしい被告人が大好きな母親を殺害することは理解し難く、動機の記憶をなくしている点などから、アルコールの影響を著しく受けた結果の犯行であると主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、精神鑑定を行ったB医師の証言を踏まえ、被告人のアルコール依存症は酒類を飲みたい欲望に抵抗できないというものに過ぎず、認知や思考に障害を生ずる精神障害には至っていないこと、犯行当時の摂取アルコール量も多量ではなかったことを認定した。その上で、ビニールひもから丈夫なドライヤーの電源コードに持ち替えて殺害目的に沿った行動をしたこと、犯行後に訪問者を追い返して発覚を遅らせ、知人に打ち明けて自首するという合理的行動をとったこと、犯行状況について明確な記憶を保持していることなどから、被告人は善悪を判断し行動を制御する能力に著しい障害はなかったと認定し、心神耗弱の主張を排斥した。 量刑については、丈夫な電源コードを用いて逃げようとした被害者の首を絞め続けた危険な犯行態様、強固な殺意、被害者に何ら落ち度がないことなどを厳しく非難した。他方、被告人が母親との関係について長年悩みながらも良好な関係を築こうと努力していた背景には一定程度理解できる点があること、自首して深く反省し、アルコール依存症からの回復に向けた取組みを誓っていること、支援団体の存在などを考慮した。親に対する殺人1件の類型の中ではやや重いものと位置づけ、被告人を懲役8年6月に処した。