AI概要
【事案の概要】 被告人は、職場の同僚である被害者(当時23歳)と不倫関係にあったが、平成28年11月4日午後9時頃から午後10時頃までの間、札幌市内の被害者方において、殺意をもって長さ約31.5センチメートル以上の索状物で被害者の頸部を絞め付け、仮死状態となった被害者を浴槽内の水中に溺没させ、絞頸および溺水による窒息により死亡させて殺害したとして、殺人罪で起訴された事案である。被告人は、当日午後7時頃から被害者方を訪れ、遅くとも午後9時50分頃までそこに滞在していた。被害者の遺体は、2日後の11月6日午後2時20分頃、被告人が自らの妻とともに被害者方を訪れた際に発見された。被告人が被害者方にいた間、他に被害者方を訪れた者はいなかった。 【争点】 本件の争点は、被告人が犯人であると認められるか否かであり、その前提として被害者の死亡時刻が争われた。検察官は、被害者の死亡時刻は11月4日午後9時頃から午後10時頃までの間であり、その時間帯に被害者と一緒にいた被告人以外に犯人は考えられないと主張した。これに対し、弁護人は、被害者の死亡時刻は翌5日未明であり、被告人が被害者方を去った後に第三者が殺害したものであって、被告人は犯人ではないと主張した。特に、解剖所見に基づき死亡推定時刻を午後9時頃から午後10時頃とする検察側のC医師・D医師の証言と、夕食後1時間以内の消化状態であるとして翌日パスタ等を食べた後に死亡した可能性を指摘する弁護側H医師の証言の信用性が対立した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、C医師およびD医師の証言は、法医学的見地からの解剖所見と胃の消化運動機序に基づく計算結果がおおむね重なり合っており信用できる一方、H医師の証言は、CT画像の解釈や消化進行の一般論との整合性、具材ごとに胃からの排出タイミングが大きく異なるとする点などに疑問があり信用できないとした。その上で、被害者は11月4日午後9時頃から午後10時頃までの間に死亡した可能性がかなり高いと認定した。また、被告人と被害者の不倫関係を巡りもめ事があったこと、被害者の上司から安否を気遣う連絡を受けてもなお被告人が一切被害者に連絡を取らなかったことなど、被告人の犯人性を強く推認させる事情が存在する一方、現場の状況や他の関係男性のアリバイ等から第三者犯行の可能性は考え難いと判断した。被告人の弁解についても、被害者の心境の急激な変化など不自然な点が多く信用できないとして、被告人が犯人であることは常識に照らして疑いを差し挟む余地なく認められるとした。量刑においては、抵抗できない状態の被害者を長時間強い力で絞頸した上、全裸にして浴槽に溺没させるという極めて悪質かつ残忍な犯行であること、被害者に何らの落ち度もなく遺族の処罰感情が峻烈であること、動機は不倫関係のもつれとみられ身勝手極まりないこと、犯人性を否認し反省の態度が皆無であることなどを考慮し、被告人を懲役19年に処した(求刑懲役20年)。