AI概要
【事案の概要】 指定暴力団稲川会傘下組織の組員Aを中心とする振り込め詐欺グループにより1150万円をだまし取られた被害者(原告)が、稲川会の5代目会長であった被告に対し、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)31条の2又は民法715条1項の使用者責任に基づき、慰謝料及び弁護士費用を含む合計2150万円の損害賠償を求めた事案である。 本件詐欺は、架空の商品購入に関する名義貸しトラブルの解決金名目で高齢者から現金をだまし取る手口で、平成28年1月13日から同月27日にかけて行われた。Aは稲川会山瀬一家B組の組員で、5名からなる詐欺グループのリーダー格であり、マニュアル・携帯電話・事務所などを手配し、報酬配分も決定していた。Aは本件詐欺を含む3件の詐欺等により懲役5年6月の実刑判決を受け確定している。 【争点】 1. 本件詐欺がAによる「威力利用資金獲得行為」(暴対法31条の2本文)に該当するか 2. 被告が暴対法31条の2ただし書1号に該当するか 3. 被告がAの使用者(民法715条1項)といえるか 4. 本件詐欺が稲川会の事業として行われたものか 5. 損害の発生及びその額 【判旨】 裁判所は、原告の請求を棄却した。 威力利用資金獲得行為該当性について、暴対法31条の2が「威力を示す」ではなく「威力を利用」と規定することから、ある程度幅広い行為態様を含みうるとしつつも、Aが名簿・マニュアル・携帯電話・事務所等を用意した準備行為について、何らかの組織の協力が窺えるものの、特殊詐欺検挙人員中の暴力団構成員等の割合が3割前後であることから、協力組織が稲川会や指定暴力団であったと認めることはできないとした。また、Aは共犯者らに対し自らが暴力団構成員であることを明示的にも黙示的にも明らかにしておらず、共犯者らが危害を加えられる可能性を認識していたとはいえないと判示した。共犯者らはいずれも金銭目当てで積極的に加入した者であり、Aの指示に従って詐欺を行った事実から直ちに指定暴力団の威力を恐れて犯行に及んだとは認められないとして、威力利用資金獲得行為該当性を否定し、暴対法31条の2に基づく責任を認めなかった。 使用者責任(事業性)についても、稲川会が配下構成員に特殊詐欺への関与を厳禁しており、Aが本件詐欺による有罪判決後に破門されていること、稲川会構成員約2500名中、特殊詐欺関与事例はごく僅かであること、暴力団組織の枠組みを横断する詐欺グループの存在も窺われることなどから、Aに協力した組織が稲川会であると直ちに認めることはできず、本件詐欺による収益が稲川会傘下の暴力団に納められた事実や被告がこれを認識・容認していた事実を認めるに足りる証拠もないとして、本件詐欺を稲川会の事業として行われたものと認めることはできないと判断し、被告は使用者責任を負わないとした。