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【事案の概要】 建築作業従事者であった被災者29名及びその遺族(第1審原告ら)が、建築現場における新築・改修・解体作業等で石綿含有建材の石綿粉じんに曝露したことにより、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水といった石綿関連疾患を発症したとして、国及び石綿含有建材を製造・販売した建材メーカーら(第1審被告企業ら)を相手取り、損害賠償を求めた事案である。 第1審原告らは、国に対し、旧労基法・安衛法、労災保険法、建築基準法、毒劇法に基づく規制権限の不行使が違法であるとして国家賠償法1条1項に基づき、建材メーカーらに対しては、警告表示義務違反等を理由に民法719条1項後段の類推適用に基づく共同不法行為責任及び製造物責任法3条に基づく責任を主張し、被災者1人当たり3850万円の連帯支払を求めた。 原審は国に対する請求を被災者20名について一部認容したが、建材メーカーらに対する請求は全部棄却したため、敗訴部分を不服とする双方が控訴した。 【争点】 (1)旧労基法・安衛法等に基づく国の規制権限不行使の違法性、(2)労基法適用労働者以外(いわゆる一人親方)に対する国の責任、(3)建材メーカーらの民法719条1項後段の類推適用に基づく共同不法行為責任の成否、(4)共同不法行為者特定のためのマーケットシェアによる立証の可否などが争われた。 【判旨】 福岡高等裁判所第5民事部は、おおむね以下のとおり判断した。 まず国の責任については、昭和50年10月1日の特化則改正時以降、安衛法に基づき、使用者に労働者への防じんマスク着用義務付け、石綿含有建材への警告表示、建築作業現場における警告掲示、石綿粉じんに関する特別教育の実施を義務付けるべきであったのに、これを怠ったことは規制権限不行使の違法に当たると認めた。違法の終期は、防じんマスクについては平成7年3月31日、各警告表示及び特別教育については平成16年9月30日とした。 安衛法の保護対象は「労働者」に限られ一人親方は含まれないが、石綿粉じんの危険性は労働者と一人親方とで変わらず、現場における作業実態もほぼ同一であることから、国賠法上の保護範囲には一人親方も含まれると判示し、原判決の一人親方に対する責任否定を改めた。 建材メーカーらについては、遅くとも昭和50年1月1日の時点で石綿関連疾患発症の危険性を予見可能であったと認定し、石綿含有建材を製造・販売するに当たり、石綿含有の事実・量、石綿関連疾患発症の危険性、防じんマスク着用等の予防策を表示する警告表示義務を負っていたのにこれを履行しなかったとして義務違反を認めた。 共同不法行為者の特定方法としては、被災者が長期間多数の建築現場で作業した本件の特殊性に鑑み、第1段階として職種から病因建材を選別し、第2段階として当該建材のマーケットシェアが概ね20%を超える企業を共同不法行為者とする立証方法(本件立証方法)を許容した。原告主張の10%では建材到達の蓋然性を擬制するに不十分であるとして、20%超を基準とした。その上で、民法719条1項後段を類推適用し、特定された建材メーカーらの連帯責任を認めた。 慰謝料は包括一律請求を認め、石綿肺管理2で合併症ある場合1300万円、管理3で合併症ある場合1800万円、管理4・肺がん・中皮腫2200万円、死亡2500万円を基準額とし、弁護士費用10%を認容した。国の責任は二次的・補充的であるとして各損害の3分の1に限定し、肺がんで喫煙歴ある者は10%減額、曝露期間が短い者は減額するなどの修正を行った。なお、建材メーカーらの一時販売停止・製造中止義務違反、建築基準法・毒劇法に基づく国の規制権限不行使の違法、製造物責任法3条に基づく責任はいずれも否定した。 結論として、国に対する請求は29名中被災者1名(第1審原告番号19)を除く28名について認容し、建材メーカーらに対する請求についても原判決を一部変更して新たに多くの被災者について認容した(国と企業らの責任は連帯関係に立たない)。