退職手当返納命令取消等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告は、昭和53年4月に北海道の職員として採用され、平成23年4月から北海道A高等学校に事務長として赴任し、PTA会計や体育実習費等の私費会計を担当していた者である。原告は、平成25年3月に定年退職し、退職手当2705万2728円を支給された後、再任用職員となった。 その後、原告が在職中に校長・教頭の私印や銀行出納印を偽造して私費会計の事務処理を単独で行っていたこと、インターネット銀行を利用して振込手数料の差額4万8455円を領得したこと、口座解約残金等の使途不明金を生じさせたこと等の非違行為が発覚した。処分行政庁(北海道教育委員会)は、平成26年3月26日付けで原告を懲戒免職処分とし、さらに平成28年11月16日付けで、北海道職員等の退職手当に関する条例15条1項2号に基づき、支給済み退職手当の手取り相当額2618万8547円全額の返納を命ずる処分を行った。 本件は、原告が、本件処分には理由提示の不備や裁量権の逸脱濫用等の違法があるとして、その取消しを求めるとともに、不当利得返還請求権に基づき、返納済みの2618万8547円及びこれに対する年5分の利息の支払を求めた事案である。 【争点】 争点は、(1)本件処分に理由提示の不備があり違法となるか、(2)前提となる本件懲戒処分の違法性が本件処分に承継されるか、(3)本件処分が裁量権の逸脱又は濫用に当たるか、(4)不当利得返還請求権の有無である。原告は、命令書に使途不明金等の非違行為(非違行為③〜⑤)が明記されていないこと、運用方針の存在や適用関係の説明がなかったこと等を理由に理由提示の不備を主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した。 まず理由提示については、本件命令書には懲戒処分の処分事由と同一の重大な非違行為(偽造印の使用、虚偽振込依頼書の作成、振込手数料差額の横領)が明記されており、原告はどのような非違行為を根拠に本件処分がされたのかを容易に知ることができる状態にあったとして、条例所定の理由提示は十分であると判断した。運用方針は考慮要素を具体化するにすぎず全職員に周知されていたから、これに関する記載や説明がないことも違法事由にならないとした。 懲戒処分の違法性承継については、退職手当返納命令処分は懲戒免職処分を前提とするが別個独立の処分であり、被処分者は懲戒処分の時点で争うことができるから、違法性が承継されることはないと判示した。 裁量権の逸脱濫用については、退職手当返納命令処分は広汎な事情を総合的に勘案して行われるものであるから処分庁の裁量に委ねられており、社会観念上著しく妥当を欠く場合に限り違法となるとの判断枠組みを示した上で、原告の非違行為は犯罪を構成しかねない重大かつ悪質なもので約2年間反復継続していたこと、保護者からの徴収金で賄われる私費会計の信頼を著しく失墜させたこと、自主申告ではなく調査で発覚したこと、説明を二転三転させていること、退職手当全額返納によっても生活が著しく困窮する状況ではなかったこと等を総合考慮し、3事項5年間の勤続や懲戒処分歴がないこと等を踏まえても、全額返納を命ずる本件処分は全部不支給を原則とする運用指針にも沿うものであって、裁量権の範囲を逸脱濫用したとは認められないと結論づけた。 以上により本件処分は適法であり、原告の返納金は法律上の原因を欠くものではなく不当利得にもならないとして、原告の請求を棄却した。