損害賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、夫婦別氏での婚姻を希望する原告ら(3組の事実婚カップル)が、夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定、及び夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項と定める戸籍法74条1号の規定(以下「本件各規定」という。)は、憲法14条1項、24条、自由権規約並びに女子差別撤廃条約に違反することが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたり本件各規定を改廃する立法措置を怠っているとして、国家賠償法1条1項に基づき、国に対してそれぞれ慰謝料50万円の支払を求めた事案である。原告らはいずれも婚姻届の氏欄に「夫は夫の氏、妻は妻の氏を希望します」と明記して提出したが、本件各規定違反を理由に不受理処分とされた。なお、最高裁は平成27年12月16日大法廷判決で民法750条について合憲と判示しており、原告らはその後の事情変更(女性の就業率上昇、世論調査における選択的夫婦別氏制賛成派の増加、地方議会による意見書採択、旧姓使用の拡大等)を根拠に違憲性を主張した。 【争点】 主たる争点は、民法750条及び戸籍法74条1号を改廃しなかった立法不作為の違法性の有無であり、具体的には、本件各規定が憲法14条1項(信条による差別)、24条(個人の尊厳と両性の本質的平等)、自由権規約(2条1項、3項(b)、3条、17条1項、23条)及び女子差別撤廃条約(2条(f)、16条1項(b)(g))に違反するか、違反することが明白であって国会が正当な理由なく長期にわたり立法措置を怠ったといえるかが問題となった。加えて、自由権規約及び女子差別撤廃条約の各規定が我が国の個々の国民に対し直接権利を保障するもの(裁判規範性・自動執行力)といえるかも争われた。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、まず憲法14条1項について、本件各規定は夫婦同氏を希望する者か別氏を希望する者かを問わずいずれにも適用されるものであり、文言上、信条に基づく差別的取扱いを定めたものではなく、形式的な不平等は存在しないから、憲法14条1項に違反することが明白とはいえないとした。次に憲法24条については、民法750条は婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたにすぎず、婚姻の直接の制約ではないとし、平成27年最高裁判決の判断枠組みを踏襲したうえ、同判決後の事情変更として原告らが主張する世論調査の結果、地方議会における意見書採択、旧姓の通称使用の拡大等を検討しても、夫婦同氏制を支持する立場の割合は依然として過半を占め、選択的夫婦別氏制導入が大勢を占めているとは認められず、また通称使用の広がりはむしろ婚姻による不利益を一定程度緩和しているとも評価できるとし、本件各規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き国会の立法裁量の範囲を超えることが明白とは認められないと判断した。さらに自由権規約の各規定については、締約国が権利の確保を約束する旨の文言にとどまり、個々の国民に直接権利を保障する締約国の意思は確認できず、23条4項についても各配偶者の婚姻前の姓の使用保持に直接言及した規定は存在せず、一般的意見も法的拘束力を持たないとした。女子差別撤廃条約2条(f)、16条1項(b)(g)についても、締約国に適当な措置を採る義務を課したものであって個々の国民に直接権利を保障するものではなく、女子差別撤廃委員会の勧告にも法的拘束力はないとした。以上より、本件各規定の改廃を行わない立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとして、原告らの請求をいずれも棄却した。