AI概要
【事案の概要】 原告(食品包装容器メーカー)は、電子レンジでラップを外さず加熱できる焼売用容器の底部に関する部分意匠(登録番号第1297087号)について意匠権を有しており、焼売の製造販売業者である浪漫亭に同意匠を用いた原告製品を納入していた。被告静岡産業社は平成27年春ころ浪漫亭から包装材取引の打診を受け、被告ヨコタ東北に製造を依頼し、原告製品と似た焼売用容器(被告製品)を製造・販売した。被告製品は底部中央のX字突条部分を変更し、中央に空間を設けた形状とした。被告静岡産業社は平成28年1月から平成30年2月まで浪漫亭に被告製品を納入し、これにより原告製品の販売数量は激減した。原告は、被告らが本件意匠権を侵害したとして、意匠法39条1項及び民法709条に基づく損害賠償として約7217万円の連帯支払と、別途原告製品の値下げ分の損害賠償を求めた。また被告静岡産業社に対し、売買契約に基づく未払代金約394万円の支払も求めた。 【争点】 主な争点は、(1)本件意匠と被告意匠の類否、(2)無効の抗弁(新規性欠如・創作容易性)、(3)黙示の実施許諾の有無、(4)権利濫用・信義則違反、(5)被告ヨコタ東北の過失、(6)共同不法行為の成否、(7)損害額、(8)売買残代金請求の成否である。被告らは、被告意匠は突条がX字ではなく中央に空間があり、凸部が3個で非対称となっており、収容部数も異なるなどの差異から本件意匠と類似しないと主張した。また、原告が被告製品の納入を知りながら長期間放置したとして、黙示の実施許諾や権利濫用を主張した。 【判旨】 大阪地裁は、原告の意匠権侵害の主張を大筋で認め、被告らに対し連帯して5888万7589円及び遅延損害金の支払を命じた。 類否判断については、本件意匠の要部を、(1)各収容部の底部中心の対角線上にX字状の突条があること、(2)底部四隅にポケット部があること、(3)底部四辺の中心に凸部があること、(4)突条・ポケット部・凸部に囲まれた段部があること、(5)6個(3列×2段)の収容部があることと認定した。被告意匠はX字の中央に空間がある点、凸部が3個である点、収容部が8個である点などで本件意匠と差異があるが、いずれも共通点を凌駕するものではなく、全体として需要者に一致した印象を与え美感を共通にするとして、類似性を肯定した。 無効の抗弁については、原告が本件意匠の出願日(平成18年6月23日)前にX字状突条の製品を納入した事実は認められず新規性は失われていないとし、また乙1意匠(原告の特許公開)とは美感や機能が大きく異なり創作容易ともいえないとして、いずれも排斥した。 黙示の実施許諾については、被告らが原告の何らかの権利を意識して底部形状を変更していたこと自体が許諾の不存在を示すとし、原告代表者が「全く同じ物は作らない」と述べたやり取りも意匠権侵害行為をしない旨の確認にすぎず、類似品の実施を許諾した趣旨とは解せないとして否定した。原告が被告製品の納入を知った時期についても、原告製品の売上減少や工場での段ボール箱の目撃のみから認定することはできないとした。 被告ヨコタ東北の過失については、製造業者として他人の知的財産権侵害回避の調査義務を負い、原告が何らかの権利を有することを認識しながら安易に本件意匠権を調査しなかったとして、意匠法40条1項の過失推定は覆らないとした。共同不法行為も肯定した。 損害額については、意匠法39条1項に基づき、被告製品の販売数に、侵害開始時(平成28年1月)の原告製品単価を基準とする単位数量当たりの利益額を乗じた額として、計5348万7589円を認定した。本件見積書提示による原告製品の値下げ分については、見積書提示自体は正当な競争行為であって不法行為に当たらないとして、別途の損害賠償請求を退けた。弁護士・弁理士費用として540万円を相当因果関係ある損害と認め、合計5888万7589円の連帯賠償を命じた。売買残代金請求については、当事者間で単価変更の合意がなされたと解され、また消滅時効も成立しているとして棄却した。