建造物侵入,殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反
判決データ
- 事件番号
- 平成30わ1145
- 事件名
- 建造物侵入,殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反
- 裁判所
- 福岡地方裁判所
- 裁判年月日
- 2019年11月20日
AI概要
【事案の概要】 被告人は、インターネット上で複数の者が一般の個人を攻撃する「集団リンチ」を行っていると考え、それらの者に対し「低能」「死ね」などと罵倒する投稿を大量に繰り返していた。ウェブサイト運営会社からアカウント停止措置を受けても新規アカウントを取得して投稿を続けるうちに、被告人は自らも「集団リンチ」の被害者だと考えるようになり、これをやめさせるには「集団リンチ」を行う者を殺害するしかないと思い詰めるようになった。そして、被害者A(当時41歳)が福岡市内でインターネット関係の勉強会を開催するために来福することを知り、同人の殺害を決意した。 平成30年6月24日午後7時頃、被告人は福岡市内のスタートアップ支援施設に侵入し、刃体の長さ約16.5センチメートルのレンジャーナイフで被害者の頸部、胸部、背部等を多数回突き刺し、頸・胸部刺創に伴う心臓刺創・頸動脈切断による失血により死亡させて殺害した。あわせて同ナイフの不法携帯(銃刀法違反)も問われた。被告人は犯行後、自ら交番に出頭し自首している。 【争点】 被告人が中等度の自閉スペクトラム症を有していたことに争いはない。検察官は、精神鑑定を行ったE医師の見解を前提に、自閉スペクトラム症の犯行への影響は限定的であり完全責任能力が認められると主張したのに対し、弁護人は、E医師の見解の信用性自体は争わないものの、被告人は心神耗弱状態にあったと主張した。 【判旨(量刑)】 被告人を懲役18年に処する。 裁判所は、被告人が攻撃対象者への罵倒投稿を執拗に繰り返したことや、綿密な準備のうえ被害者を執拗に攻撃し、犯行後に犯行声明ともいうべき投稿を行った点には、病的なこだわりの強さや思い込みの修正困難性など自閉スペクトラム症の特徴の影響が認められるとした。しかし、自閉スペクトラム症は攻撃性を特徴とするものではなく、被害者殺害の決意は被告人自身の性格・人格によるとのE医師の見解を踏まえ、犯行直前に殺害を躊躇したり、自ら交番に出頭して自首したことなど、明瞭な違法性の認識のもとで冷静に行動できていた事情を指摘し、善悪の判断能力や行動制御能力が著しく低下していた疑いはないとして完全責任能力を認めた。 量刑については、犯行現場の下見や予行演習まで行う綿密な準備のうえ、逃げる被害者を追い掛けて30か所以上を刺し失血死させた犯行態様を、非常に強固な殺意に基づく計画性の高い悪質なものとして特に重視した。動機についても、被害者は運営会社に通報したにすぎないのに一方的な殺意を抱いた点を身勝手で理不尽と断じ、自閉スペクトラム症の影響を被告人に有利に考慮するにも限度があるとした。同種事案(凶器使用の計画的殺人で、怨恨動機のもの)の量刑傾向に照らし重い部類に属すると位置付けたうえで、自首による捜査への寄与は一定程度評価する一方、人の死に対する考えが深まらず遺族への十分な謝罪ができていないこと、遺族の厳しい処罰感情などを踏まえ、前科前歴がないことを考慮しても主文の刑はやむを得ないとした。