AI概要
【事案の概要】 本件は、航空自衛隊に所属していた原告が、イラク復興支援のためクウェートに派遣され、アメリカ合衆国空軍基地におけるマラソン大会中に米軍関連企業の大型バスに接触し傷害を負ったとして、被告である国に対し、安全配慮義務違反等を理由に損害賠償を求めた事案である。 原告は、平成3年4月に航空自衛隊に入隊し、小牧基地で勤務していたところ、平成18年4月からイラク特措法に基づきクウェートに派遣され、イラク復興支援隊業務隊通信小隊員として勤務していた。同年7月4日早朝、米軍主催のレクリエーションマラソン大会に参加中に米軍契約業者の大型バスと接触し、頸椎・左肩打撲等の診断を受けた。帰国後も首・肩・顎関節の痛みやうつ病、パニック障害等の症状に悩まされ、平成19年5月には本件事故による傷病について公務災害の認定を受けた。その後、小牧基地から新潟救難隊へ異動となり、平成23年6月に後輩隊員との口論をきっかけとする本件トラブル等を経て、同年10月に航空自衛隊を依願退職した。 原告は、主位的に、マラソン大会における安全確保義務の懈怠、受傷後の適切な治療の懈怠、帰国後の医療配慮の欠如、公務災害認定手続の遅延、療養補償給付の打切り、新潟基地における組織的ないじめ・パワハラ行為という一連の安全配慮義務違反を主張し、予備的に、個々のパワハラ行為の違法性を主張して、逸失利益及び慰謝料等として合計約1億2352万円の支払を求めた。 【争点】 主要な争点は、(1)国家賠償法1条1項に基づく請求の可否、(2)被告が負うべき安全配慮義務の根拠及び概括的内容、(3)マラソン大会への参加に関する義務違反の有無、(4)受傷後の適切な治療に関する義務違反の有無、(5)帰国後の適切な医療対応に関する義務違反の有無、(6)公務災害認定手続の遅延による義務違反の有無、(7)治療の妨害行為及び療養補償給付支給の打切りによる義務違反の有無、(8)パワハラ行為の有無である。 【判旨】 名古屋地裁は、原告の請求をいずれも棄却した。 マラソン大会への参加については、米軍主催の任意参加のレクリエーション行事であり、参加は業務として命じられたものではないから、被告に安全確保義務違反は認められないとした。受傷後の治療、帰国後の医療対応、公務災害認定手続についても、現地医官の対応、帰国タイミングの判断、海外旅行保険による対応方針はいずれも合理的であって、被告の対応に義務違反は認められないと判断した。 療養補償給付の打切りについても、担当医による症状固定の診断は医学的に相当なものであり、被告担当者が医療機関に働きかけて症状固定の診断をさせた事実は認められないとした。 原告が主張したパワハラ行為についても、公務災害認定に関するJの発言、職場復帰命令、隊員身上票の記載、後輩Eによる接触行為、幹部7名による面談、配置替え・パスワード変更、Hによる指示、G立会いによる示談成立、新潟異動等、いずれの点についても原告供述の信用性を否定し、あるいは業務上相当な範囲を超えるものではないとして、被告に安全配慮義務違反があったとは認められないと結論付けた。 本判決は、本件事故が原告の人生に著しい悪影響を及ぼしていることは否定できないとしつつも、被告に法的責任を認めることはできないとして、原告の請求をすべて棄却したものである。