殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
判決データ
- 事件番号
- 平成29あ621
- 事件名
- 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判年月日
- 2019年12月2日
- 裁判種別・結果
- 判決・棄却
- 裁判官
- 小池裕、池上政幸、木澤克之、山口厚、深山卓也
- 原審裁判所
- 大阪高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、覚せい剤中毒後遺症により「刺せ刺せ」という幻聴が連続的に聞こえる状態にあった被告人が、頼ろうとしていた実兄に見捨てられ、知人に紹介された仕事も期待外れであったことから将来に強い不安を抱き、自殺もできず自暴自棄となって、幻聴に従ってしまおうと考え、白昼の繁華街で面識のない通行人2名を無差別に殺害した刑事事件の上告審判決である。 被告人は、繁華街で一人目の被害者(当時42歳)に背後から突進して包丁を突き刺し、倒れた被害者に馬乗りになって何回も包丁を突き刺した。その後、自転車を押して逃げようとしていた二人目の被害者(当時66歳)の背後から突進して同様に包丁を突き刺し、倒れた被害者を執ように刺した。さらに、一人目の被害者が動いたことから再び同人に包丁を突き刺し、両名を殺害した。被告人は19歳頃から覚せい剤を使用し、覚せい剤の使用・所持による累犯前科3犯を有していた。 第1審(裁判員裁判)は被告人を死刑としたが、控訴審は量刑不当として第1審判決を破棄し、被告人を無期懲役に処した。これに対し、検察官が量刑不当を理由として上告した。 【争点】 被害者2名の無差別殺人事件において、被告人を無期懲役に処した原判決の量刑が甚だしく不当であり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するといえるか。特に、犯行態様の執ようさ・残虐さ、生命軽視の度合い、計画性の有無、覚せい剤中毒後遺症による幻聴が犯行に及ぼした影響等をどのように評価すべきかが問題となった。 【判旨(量刑)】 最高裁第一小法廷は、検察官の上告を棄却し、無期懲役とした原判決を維持した。 本件は被害者2名を殺害した無差別殺人であり、犯行態様は被害者に突然襲い掛かり包丁でめった刺しにするもので、生命侵害の危険性が高く、執ようさ・残虐さが際立っており、生命軽視の度合いは甚だしい。遺族の処罰感情も峻烈であり、被告人の刑事責任は誠に重く、死刑選択の当否を慎重に検討すべき事案である。 もっとも、覚せい剤中毒後遺症による幻聴が犯行の一因となっていたことは量刑上考慮すべき要素であり、更生に向けて行動を起こしながら自暴自棄に至った経緯にも斟酌の余地がないとはいえない。犯行約10分前に包丁を購入してはいるが、その時点で殺人の犯意が確定していたとはいえず、特段の計画や準備もなく、場当たり的・衝動的な犯行であった。また、臨場した警察官の一喝で犯行を終了し、抵抗せず逮捕に応じて悔悟反省の態度を示しており、無差別殺人遂行の意思が極めて強固であったとも認められない。 これらを踏まえると、被告人の生命軽視の度合いが甚だしく顕著であったとまではいえない。死刑が究極の刑罰であり、その適用は慎重に行わなければならないという観点および公平性確保の観点から犯情を総合評価すると、無期懲役とした原判決の量刑が甚だしく不当であり、これを破棄しなければ著しく正義に反するとは認められないとした。 なお、原判決が計画性の有無・程度を非難の程度を判断する指標であるかのように説示した部分は是認できないと付言された。