AI概要
【事案の概要】 本件は、令和元年7月21日に施行された参議院議員通常選挙のうち比例代表選出議員選挙(本件選挙)について、選挙人である原告らが、公職選挙法204条に基づき選挙の無効を求めた選挙無効訴訟である。参議院議員選挙をめぐっては、従前から都道府県ごとの人口較差(いわゆる一票の較差)が問題とされ、平成27年改正では「徳島県・高知県」「鳥取県・島根県」の4県2合区を含む10増10減が行われた。しかし抜本的改革には至らず、附則において次の通常選挙に向け引き続き検討する旨が規定されていた。 これを受けて行われた平成30年改正では、選挙区選出議員の定数を2人増やして埼玉県選挙区に配分する一方、比例代表選出議員の定数を4人増やして100人とし、さらに政党等があらかじめ順位を付した拘束式名簿で優先的に当選させる候補者を記載できる「特定枠制度」が導入された。特定枠は、合区によって候補者を擁立できなかった県の人材や、全国的知名度はないが国政上有為な人材、少数意見を代表する者などの当選機会を確保することを目的として説明されている。 原告らは、特定枠制度は合区で落選対象となった自民党側の候補者を救済するための「党利党略」に基づく制度であり、国民の意思を反映する目的を欠き、政党の都合で当選者が決まるものであって「全国民の代表」(憲法43条1項)に反すると主張した。加えて、国会が附則で約束した抜本的改革を履行せず、むしろ議員定数を6人増加させたことは国民の信託に対する違反であり、野党提出の対案をほとんど審議せずに自民党案のみを可決した手続も討議義務違反に当たるとし、さらに同日施行の選挙区選出議員選挙が違憲無効である以上、比例代表選挙も無効であると主張した。 【争点】 主な争点は、(1)特定枠制度が代表民主制(憲法43条1項)に違反するか、(2)抜本的改革の不履行や定数削減約束の不履行が憲法前文の「国政は国民の厳粛な信託による」との規定に反する信託違反となるか、(3)野党案の審議過程が国会の討議権能を放棄した重大な手続違反か、(4)比例代表定数を4人増やした立法に正当な目的があるか、(5)選挙区選挙の違憲無効を理由に比例代表選挙も無効となるか、の5点である。 【判旨】 東京高裁は、原告らの請求をいずれも棄却した。まず特定枠制度について、選挙人が政党等を選択して投票し得票数に応じて名簿順に当選人を決定する方式は、選挙人の総意により当選人が決まる点で候補者個人を選ぶ方式と実質的に異ならず、最高裁平成11年11月10日大法廷判決の趣旨に照らし憲法43条1項に違反しないと判示した。立法目的についても、民意の多様化や人口減少県の声を国政に届ける必要性を踏まえたものと認められ、不当な動機に基づくものとはいえないとした。 信託違反の主張については、比例代表選挙には投票価値の較差問題は存在せず、選挙区選挙の仕組みの合憲性を比例代表選挙無効訴訟で争うことはできないとした上で、党首討論での定数削減言及があっても、所定の手続で成立した法律の効力を否定する根拠にはならないと退けた。国会審議についても、最高裁平成16年1月14日大法廷判決を引用し、所定の手続にのっとって成立した法律の効力は審議の内容・経過に左右されないとして、手続違反の主張を失当とした。選挙区選挙の無効を理由とする主張も同様に、別制度である比例代表選挙の無効訴訟で争うことはできないとして排斥し、平成30年改正法に無効事由は認められないと結論付けた。