謝罪広告等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、米穀卸売会社の原告京山と、その株主であり取引関係にあるJAグループ京都の関係団体(原告JA京都中央会、JA全農、JA京都)が、被告ダイヤモンド社発行の週刊ダイヤモンド平成29年2月13日号および同社ウェブサイトに掲載された「告発スクープ 産地偽装疑惑に投げ売りも JAグループの深い闇」と題する記事について、名誉毀損にあたるとして争った事案である。本件記事は、被告記者が原告京山の楽天市場店で購入したこしひかり4袋を株式会社同位体研究所に安定同位体比による産地判別検査を依頼した結果、本件滋賀米は10粒中6粒、本件京都丹後米は10粒中3粒、本件魚沼米は10粒中4粒が中国産と判別されたという検査結果を紹介し、さらに本件魚沼米については他府県産米混入の可能性が高いとされたこと、原告京山がJAグループ京都と資本・人的に密接な関係にあることを伝え、産地偽装の疑惑を指摘する内容であった。原告らは、記事掲載直後に、本件ウェブ記事の削除と週刊誌・サイト上への謝罪広告掲載(民法723条)、執筆記者・編集長・代表取締役らに対する損害賠償を求めた。原告京山は、取引先が商品取扱いを中止したことによる逸失利益・調査費用等として6億4560万円余、JA側原告らは各1100万円を請求した。 【争点】 主な争点は、本件記事が摘示した事実の特定、公共性・公益目的の有無、摘示事実の真実性または真実相当性の有無、意見論評の域を逸脱したか否かであった。原告らは、記事は原告京山が「意図的に」中国産米・他府県産米を混入させたとの事実を摘示したと主張したのに対し、被告らは、意図的混入を示唆する部分は意見・論評にすぎないと争った。また、原告側は、同位体比による産地判別の信頼性には問題があること、農水省の立入検査や穀物検定協会等による再検査では外国産米混入が認められなかったこと、中国産短粒種のSBS輸入実績が2014〜16年にはなかったことなどを挙げて真実性を否定し、被告の再検査義務違反も主張した。 【判旨】 京都地裁は、原告らの請求をいずれも棄却した。まず事実摘示の範囲について、記事の本文や見出しを総合すると、一般読者の通常の読み方を基準として、同位体研究所の判別結果に基づき、原告京山が販売した米に中国産米が混入していたこと、および原告京山とJA側原告らが資本・取引を通じて密接な関係にあることが事実として摘示された上で、それを前提に産地偽装関与の疑いを指摘する意見・論評が表明されたと解した。「意図的に混入させた」と断定する事実摘示ではなく、具体的数値を踏まえた評価的言明であるとされた。 次に公共性・公益目的については、米の産地表示は消費者の重大関心事であり、前件記事をめぐるJA側との確執を考慮しても専ら公益目的と認定した。真実性等の判断では、資本・取引関係の事実は真実と認められた。中国産米混入の事実自体は、判別精度が92.8%にとどまり、農水省の立入検査でも外国産米混入は確認されず、原告側による穀物検定協会・ビジョンバイオ・同位体研究所への再検査でも全て国産と判別されたことから、真実とは認められなかった。もっとも、被告記者は、穀物検定協会を介してサンプルを封印して送付するなど客観性を担保した手順を踏み、同位体研究所が農水省の産地表示適正化対策事業を独占的に受託する実績ある機関であることを事前に取材で確認していたことから、判別結果を信頼したことには合理性があり、真実と信じるにつき相当な理由があると認定した。再検査をしなかった点についても、既に10粒単位で検査しており判別得点が境界付近でもなかったこと、DNA検査は品種判別にとどまり産地判別に代替できないことなどから相当性を否定する事情にあたらないとした。意見論評の域の逸脱もなく、人身攻撃にあたる記載もないとして、違法性阻却または故意過失否定により不法行為は成立しないと結論付けた。被告記者が記事公表時に農水省幹部に記事を示した通報行為についても、本体の記事公表が適法である以上不法行為は成立しないとされた。 本判決は、安定同位体比による産地判別という科学的検査手法を用いた告発報道について、真実性が認められない場合でも、検査機関の選定・サンプル採取手続・検査結果の受取という取材過程に合理性があれば真実相当性が肯定されることを示した事例として、食品安全をめぐる調査報道の実務に参考となる。