強盗殺人,有印私文書偽造,同行使,詐欺
判決データ
- 事件番号
- 令和1う526
- 事件名
- 強盗殺人,有印私文書偽造,同行使,詐欺
- 裁判所
- 大阪高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年12月12日
- 裁判種別・結果
- 棄却
AI概要
【事案の概要】 被告人は、中国への渡航を希望していたものの日本での在留資格を失っていたため、他人名義のパスポートを取得しようと考え、パスポートを取得していなかった同級生の被害者を殺害して身分証を奪い、被害者に成り代わる計画を立てた。被告人は事前に被害者の予定を確認し、東京から大阪へ移動して凶器のペティナイフを準備した上で被害者宅を訪問し、被害者と話をした後、帰宅を促された場面で「先延ばしはできない」と決断し、被害者の胸部・腹部等を多数回突き刺して殺害、現金・源泉徴収票・クレジットカード等を奪った。さらに奪ったクレジットカードを用いて、ペットホテル、宿泊施設、衣料品店で承諾書等を偽造して提出し、預託サービスや宿泊、商品の交付を受けるなどした(有印私文書偽造・同行使・詐欺3件)。一審の大阪地裁は被告人を無期懲役に処したため、弁護人が控訴した。争点は、犯行当時の被告人の責任能力と量刑の相当性であり、特に被告人が解離性同一性障害にり患していたことの評価が問題となった。 【争点】 弁護人は、(1) 被告人は解離性同一性障害により、犯行当時「大胆で冷酷な自分」という別人格に行動を支配され、「おとなしい自分」である主人格は別人格をコントロールできなかったのだから、行動制御能力が著しく低下した心神耗弱状態にあったと主張し、原判決が精神科医の鑑定意見を曲解・恣意的に引用したとして最高裁平成20年4月25日判決に反すると争った。(2) また、在留資格喪失による孤立や病気への罹患に酌むべき事情があり、刑法66条による酌量減軽をすべきで、無期懲役は重すぎるとも主張した。 【判旨(量刑)】 大阪高裁は控訴を棄却した。責任能力について、鑑定人は犯行時の被告人の精神状態について「主として別人格が支配していたが、主人格と別人格は完全には解離しておらず記憶を共有し、目的に沿った合理的行動ができ、状況を正しく認識し行動のコントロールができていた」と述べており、この意見は信用できると判断した。その上で、責任能力は犯行時の精神状態における善悪の判断能力と行動制御能力を問題とするものであるから、当時の精神状態に行動制御能力が認められる以上、さらに「主人格」がその状態を制御できるかという点を論じる必要はないとし、原判決の法的判断を正当とした。解離性同一性障害における別人格も「一人の人間の中の別の側面」にすぎず、被告人はパスポート取得という明確な目的のもと、被害者宅訪問・殺害・遺体梱包・証拠隠滅・カード悪用と一貫して合理的に行動していたことから、完全責任能力を肯定した原判決は相当である。量刑についても、計画性が高く、殺害意思が強固であり、身勝手な動機による重大な結果と遺族の厳しい処罰感情を踏まえれば、在留資格の問題や解離性同一性障害の罹患は、非難を軽くする事情としては限度のある情状にとどまり、酌量減軽をせず無期懲役を科した原判決の量刑は重すぎないと結論づけた。