AI概要
【事案の概要】 本件は、元福岡県警警察官である被控訴人が、指定暴力団五代目工藤會の幹部であった控訴人らに対し、退職後の平成24年4月19日に工藤會構成員Aから自宅付近路上で拳銃により銃撃され、左股関節内異物残留・左大腿部銃創の傷害を負った事件について、共同不法行為(民法719条)、使用者責任(民法715条)、暴対法31条の2に基づき、約2968万円の損害賠償を求めた事案の控訴審判決です。被控訴人は昭和45年から工藤會を中心とする暴力団犯罪捜査に従事し、平成23年3月に退職しました。在職中、被控訴人は工藤會を破門された元構成員Jと面談した際、工藤會総裁の控訴人Bらを批判する発言をしましたが、その発言を録音した記録媒体がJから工藤會幹部に渡り、控訴人Bは激怒して被控訴人への態度を一変させていました。原審は共同不法行為責任を認め1623万5965円及び遅延損害金の支払を命じ、控訴人らが控訴しました。 【争点】 (1)控訴人ら4名の共同不法行為責任の成否、すなわち総裁の控訴人B、会長の控訴人C、理事長の控訴人D、田中組若頭の控訴人Eが順次指示をして本件襲撃を実行させた共謀があったか、(2)控訴人Eが実行犯Aに対して殺意ある襲撃を指示したといえるか、(3)使用者責任・暴対法31条の2に基づく責任の成否、(4)損害額(特に慰謝料額)が主たる争点となりました。 【判旨】 福岡高裁は本件各控訴をいずれも棄却し、原判決を維持しました。工藤會はピラミッド型階層組織で、上位の指示は絶対であり、控訴人Bらに捜査が及ばないよう総裁→会長→理事長→下部組織という指示系統が厳守されていたと認定しました。控訴人Eの「足に向けて撃て」「絶対に殺すな」との指示供述に対しても、大腿部には大動脈が通り、原付に跨った不安定な姿勢で殺傷能力の高い拳銃を発射すれば死亡する危険が高かったこと、控訴人Eも当然これを認識していたことから、殺意を認めました。控訴人B・C・Dについても、控訴人Dが被控訴人方を下見し、襲撃後にAに報酬50万円を提供した事実、控訴人Bが被控訴人に強い憤りと恨みを抱き続けていた動機、元警察官襲撃という組事務所捜査を招く重大行為を控訴人Dが独断で実行することは工藤會内で許されないこと、控訴人Dが叱責や懲罰を受けた形跡がないことを総合し、控訴人B→C→D→Eへと順次指示がされたと推認しました。損害額については、特定危険指定暴力団による組織的背景を有する故意の殺人未遂行為という特殊性に鑑み、交通事故の算定基準をはるかに超える慰謝料1000万円が相当であると判断し、治療費・休業損害・逸失利益等を含め、損益相殺後に弁護士費用150万円を加えた合計1623万5965円の連帯賠償責任を肯定しました。暴力団組織の指揮命令系統の実態に即して上位幹部の共謀を推認した点に実務的意義のある判決です。