AI概要
【事案の概要】 原告は、「分割起点形成方法及び分割起点形成装置」という発明の特許権者である。この発明は、半導体ウェーハを薄く切り分けてチップを製造する工程に関するもので、従来は基板にナイフエッジを当てて割る方法や、レーザ照射で基板内部に改質領域を作ってから割る方法が用いられていた。これらの方法では、チップの断面に改質領域が残って発塵したり、応力が不均一にかかってチップが割れたりするという問題があった。本件発明は、レーザで改質領域を形成したウェーハの裏面を研削する際、改質領域から延びる微小な亀裂をウェーハ表面に露出させない状態で研削除去する「研削手段」を備えた装置を特徴とするものである。 被告浜松ホトニクス株式会社は、レーザ加工を行うためのレーザエンジン(被告各製品)を製造し、訴外株式会社ディスコに販売している。ディスコは、被告各製品を搭載したSDレーザソー(ステルスダイシング装置)と研削装置等を組み合わせて、SDBGプロセス(Stealth Dicing Before Grinding、レーザで改質領域を形成した後に研削する工程)を実行するシステムを製造販売している。原告は、このシステムが本件特許発明の技術的範囲に属するとした上で、被告が製造販売する被告各製品は特許法101条2号の間接侵害(「発明による課題の解決に不可欠なものの生産・譲渡等」)に該当すると主張し、被告各製品の製造譲渡等の差止めと廃棄を求めた。 【争点】 主な争点は、(1)SDBGプロセス実行システムが本件特許発明の構成要件C(微小亀裂を表面に露出させない研削)を充足するかという直接侵害の成否、(2)被告各製品(レーザエンジン)が本件発明に係る「物」の「生産に用いる物」であって「発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるか、(3)被告の主観的認識の有無、であった。 【判旨】 東京地裁民事第47部は、原告の請求をいずれも棄却した。裁判所は、まず争点(2)から検討し、本件特許請求の範囲の記載を重視した。すなわち、請求項が「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための分割起点形成装置」と規定されていることから、本件発明は「既に改質領域が形成されたウェーハ」を加工対象物とする装置であり、改質領域を形成する工程自体は本件発明の装置の外に位置付けられると解釈した。そのため、ウェーハ内部に改質領域を作るための装置にすぎない被告各製品(レーザエンジン)は、本件発明に係る分割起点形成装置の「生産に用いる物」には該当しないとした。 さらに裁判所は、本件発明の技術的特徴は専ら「研削手段」の点にあり、明細書でも研削工程における亀裂の進展制御が課題解決の中核として記載されていることを指摘した。レーザ光による改質領域形成と研削工程における亀裂進展との関連性についての具体的構成や条件は明細書に記載がないため、改質領域を形成するレーザ光を照射する被告各製品は「発明による課題の解決に不可欠なもの」には当たらないと判断した。 原告は、一連のプロセスを実行する装置が全てそろって初めて技術的意味を持つと主張したが、裁判所は、各装置は工程ごとに具体的に把握できるものであり、請求項の文言から導かれる解釈を左右するものではないとして排斥した。以上により、その余の争点を判断するまでもなく特許法101条2号の間接侵害は成立しないとして、原告の請求を全て棄却した。本判決は、間接侵害における「生産に用いる物」および「課題解決に不可欠なもの」の該当性判断に際し、特許請求の範囲の文言解釈と明細書上の技術的特徴の位置付けを重視した事例として意義を有する。