損害賠償等請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 令和1ネ10053
- 事件名
- 損害賠償等請求控訴事件
- 裁判所
- 知的財産高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年12月18日
- 裁判官
- 高部眞規子、小林康彦、関根澄子
- 原審裁判所
- 大阪地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、特許権の専用実施権等の設定契約(本件契約)を締結した控訴人(株式会社アイエスティー)が、契約相手方である被控訴人(ハリマ化成株式会社)に対し、契約で約定された一時金4500万円の支払等を求めた事案の控訴審である。 本件契約は、蛍光色素に関する特許技術を生体(バイオセンサー)分野に応用することを目的としたもので、その第25条には「本契約は、共同研究契約及び製造委託契約の締結を条件とする」との定めがあった。被控訴人は、この技術を生体分野に応用した経験がなく、控訴人から情報開示を受けた上で協業化の可否を判断する必要があったため、共同研究契約等の締結を本件契約の効力発生の条件として定めたものであった。 契約締結後、被控訴人は控訴人から開示された情報を検討したが、主力製品「Fluolid」についての十分な情報開示がないこと、第三者と共同出願している未公開発明について仮専用実施権設定の同意が得られる見込みがないこと、控訴人が契約で禁じられた第三者との類似共同研究を継続していた疑いがあることなどから、協業化は困難と判断し、共同研究契約等は締結されなかった。 控訴人は、主位的に本件契約に基づく一時金4500万円の支払を、予備的に被控訴人が条件成就の意思なく契約を締結して控訴人のノウハウを詐取したとして不法行為による同額の損害賠償を求めて提訴した。原審(大阪地裁)は、本件契約第25条は停止条件であり、被控訴人が故意に条件成就を妨げた事実もないから契約の効力は未発生であるとして主位的請求を棄却し、不法行為の成立も否定して予備的請求も棄却した。控訴人はこれを不服として控訴し、当審において新たに「同条の『条件』は法的効果を伴わないか、解除条件である」との主張を追加した。 【争点】 本件の主な争点は、①本件契約第25条の「条件」の法的性質(停止条件か解除条件か、そもそも法的効果を伴うか)及び当審における新主張の可否(自白の撤回に当たるか)、②被控訴人が民法130条にいう故意に停止条件の成就を妨げたといえるか、③被控訴人による詐欺的不法行為の成否である。 【判旨】 知的財産高等裁判所第1部は、本件控訴を棄却した。 まず、本件契約第25条の法的性質に関する控訴人の当審における新主張について、原審では裁判所が「主張の骨子レベルの整理案」を双方に提示して争点整理を行い、控訴人自身が同条の「条件」は停止条件であることを前提として主張を構築し、原判決もその前提で判断していた経緯を認定した上、当審で「法的効果を伴わない」「解除条件である」等と主張することは成立した自白の撤回に当たり、錯誤も認められないから許されないと判示した。付言として、本件契約が法人間の書面契約であり、第25条の見出しと文言からすれば停止条件以外に解する余地はないとも述べている。 次に、被控訴人が故意に停止条件の成就を妨げたかについては、被控訴人が共同研究契約等の締結に向けて様々な作業を行っており、締結を回避しようとした事実は認められないとして、民法130条による条件成就擬制を否定した。詐欺による不法行為についても、その成立を基礎付ける事実は認められないとして原判決の判断を是認した。 本判決は、訴訟上の争点整理手続を経て一方当事者が前提として陳述した法的主張を控訴審で覆すことが自白の撤回として制限される場面を示すとともに、契約書に明記された「条件」条項の解釈として、法人間の書面契約における文言の一義性を重視した点に実務上の意義がある。