AI概要
【事案の概要】 本件は、「光学情報読取装置」に関する特許(特許第3823487号、平成9年10月27日出願)の特許権者である原告(株式会社デンソーウェーブ)が、被告(ハネウェル・インターナショナル・インク)の請求により特許庁が本件特許を無効とした審決の取消しを求めた事件である。 問題となった発明は、2次元バーコードであるQRコードなどを読み取るためのハンディ型コードリーダの光学設計に関するものである。具体的には、複数の受光素子を2次元的に配列し、各素子に集光用のマイクロレンズを設けた光学的センサ(CCD)について、結像レンズの前方(被写体側)に絞りを配置することで射出瞳位置までの距離を長くし、周辺部の受光素子に入射する光が斜めになる度合いを小さくするという、いわゆる「前絞り」構造を採用することを特徴としていた。 これに対し、被告(米国のハネウェル社)は、本件特許出願前に米国ウェルチアレン社製のコードリーダ「IT4400」がアイニックス社を通じて日本国内で販売されており、その製品に同様の光学構造が既に備わっていたことなどを理由に無効審判を請求した。特許庁は、IT4400発明に、マイクロレンズ付き撮像素子における周辺部光量不足を「前絞り」で解消するビデオカメラ分野の周知技術(甲12、甲13、甲15)を組み合わせれば当業者が容易に発明できたとして、本件特許を無効とする審決をした。原告はこれを不服として知的財産高等裁判所に取消訴訟を提起した。 【争点】 (1) IT4400発明の公然実施性と構成の認定に誤りがあるか(米国で入手された製品をもとに国内販売品の構成を認定できるか)。(2) コードリーダ分野と異なるビデオカメラ分野の周知技術(前絞り構造)を組み合わせる動機付けが認められ、相違点1・2についての容易想到性の判断に誤りがないか。 【判旨】 知的財産高等裁判所第1部は、原告の請求を棄却した。 第一に、IT4400発明の認定について、販売者であるアイニックス社代表者の陳述書、開発設計者の宣誓供述書、設計図面、当時の記事等を総合すれば、国内で販売されていたIT4400が分解実験対象製品と同一のセンサ・光学系(3枚レンズ構成の結像レンズと絞り)を備えていたと認められ、広告写真と製品外観に多少の相違があっても、光学系や照明系に変更がなかった以上、発明の認定に影響しないとした。 第二に、容易想到性について、マイクロレンズ付き撮像素子を採用した光学系では、中心部に比して周辺部で光量不足が生じるという課題は、用途がビデオカメラに限られるものではなく、同様の光学系・撮像方式を採用するコードリーダにおいても生じ得る事象であって、当業者は普通にこれを認識できたとし、前絞り構造を採用する周知技術を公然実施されたIT4400に組み合わせることは容易であると判断した。ガンタイプで一定の大きさが許容されることや機能の優先順位が異なることは、組合せの阻害要因にはならないとした。相違点2の「所定値」の設定についても、射出瞳位置を調整することは適宜採用しうる設計事項にすぎないと判断した。 結論として、本件特許を無効とした特許庁審決に誤りはないとして原告の請求を棄却した。2次元コードリーダに、隣接する撮像技術分野の周知技術を組み合わせる動機付けを幅広く認める判断を示した一例として、進歩性判断における技術分野の共通性を考える上で参考となる事件である。