遺族厚生年金不支給処分取消等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、夫Aの死亡後、その妻である原告が遺族厚生年金の裁定を請求したところ、厚生労働大臣から、原告はAの死亡当時「その者によって生計を維持したもの」に該当しないとの理由で不支給処分を受けたため、その取消しと支給裁定の義務付けを求めた事案である。 原告は昭和44年にAと婚姻し、約33年にわたり専業主婦として同居していたが、Aは子の出生後から原告や長女に対して頻繁に暴力を振るうようになり、原告は全治1か月の鼻骨骨折を負うなどの被害を受けていた。平成15年5月、Aから「バットで叩き殺す」などと言われ生命の危険を感じた原告は、長女の助けを借りて自宅を出て別居を開始した。別居開始時、原告は自宅金庫内の現金200万円とA名義の銀行口座から引き出した現金等、合計約540万円を生活費として持ち出した。 別居後、原告は熊本市の実家や子らの住居に身を寄せ、自身の年金収入(当初は約1万円、平成23年12月以降は約7万8000円)と上記持ち出し金の取崩しで生活した。他方Aは、原告の居場所を探し回り、「これからも叩く」と反省の態度を示さなかったほか、平成24年以降に第三者への暴行で複数回逮捕され、平成26年8月から平成28年8月まで大分刑務所で服役し、出所直後に死亡した。原告とAは離婚に向けた動きをせず、Aは別居後も配偶者控除や加給年金を受給し続け、原告も警察対応や葬儀の喪主を務めていた。 【争点】 原告が、厚生年金保険法59条1項にいう「被保険者の死亡の当時、その者によって生計を維持したもの」(生計維持要件)、とりわけ厚年法施行令3条の10の「生計を同じくしていた者」(生計同一要件)に該当するか。具体的には、DVから逃れるための別居で、認定基準が定める経済的援助や定期的音信・訪問の典型例に当たらない場合でも、認定基準総論ただし書により生計同一要件を満たすと評価できるかが争われた。 【判旨】 請求認容。裁判所は、厚年法59条1項が遺族厚生年金の支給対象を生計維持関係のあった遺族に限定するのは、被保険者の死亡により生計の途を失う者の生活保障にあると確認した上で、認定基準は典型例を定めたにすぎず、夫婦の在り方の多様性に照らし、これに該当しない場合でも認定基準総論ただし書により生計同一要件充足を認め得ると判示した。 本件では、①別居はAの暴力というやむを得ない事情によるもので、別居長期化にも相応の理由があること、②原告の生計維持には年金収入や子らの援助だけでは足りず、Aの収入から得た同居時貯蓄金・別居時持ち出し金の取崩しが不可欠で、Aもその使用を黙認していたこと、③離婚に向けた働きかけがなく、Aが配偶者控除・加給年金を受給し続け、原告も警察対応や喪主を務めていたことから婚姻が形骸化していたとは言えないこと、④住民票を長男の住所に移したのもAが健康保険に加入しないという事情に起因することを指摘し、原告はAの婚姻関係を基礎としてその収入により生計を維持していたと評価するのが相当として、生計同一要件該当性を肯定した。したがって不支給処分は違法であり、支給裁定の義務付けも認容された。