AI概要
【事案の概要】 本件は,ライン状のLED光照射装置に関する被告の特許(特許第4366431号,発明の名称「光照射装置」)について,原告が特許無効審判を請求したところ,特許庁が請求不成立の審決をしたため,原告がその取消しを求めた事件である。原告と被告はいずれもLED照明機器の開発・製造販売を行う企業で,工場などでの製品検査に使われるライン状照明装置の分野で競合関係にあった。本件特許の核心は,LED基板に搭載するLEDの個数を,電源電圧に対して直列接続できるLED単位数の「最小公倍数」とし,かつ複数のLED基板をライン方向に直列させるという構成にある。この構成により,赤色・白色・赤外など順方向電圧の異なるLEDを用いる場合でも,基板と筐体を共通化して部品点数と製造コストを削減できるというのが発明の意義である。原告は,自社の従来製品(甲3~甲5)がすでに公然実施されており,本件発明は新規性を欠くか,少なくとも当業者が容易に想到できたものである旨を主張した。また,被告が審判中に行った訂正が実質上特許請求の範囲を変更するものだとも主張した。 【争点】 争点は大きく五つある。第一に,訂正要件(特許法126条6項)の判断の当否であり,1枚のLED基板の発明を複数枚直列の発明に「変質」させるものかどうかが問われた。第二から第四は,原告の従来製品を主引用例(甲3発明・甲4発明・甲5発明)として,本件発明1の新規性・進歩性があるかである。特に,甲5発明では1枚の基板にLEDが174個搭載されていたところ,これを「最小公倍数」の6個に減らすことが当業者にとって容易想到かが問題となった。第五は,請求項3(表面実装型LEDの限定)についての新規性・進歩性判断である。 【判旨】 知財高裁は,原告の請求をいずれも棄却した。まず訂正要件については,訂正前の請求項は「LED基板」の枚数を単数に限定しておらず,明細書にも複数枚を直列させる記載があることから,本件訂正は特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではないと判断した。次に進歩性の各争点について,裁判所は本件出願当時の技術常識として「LED基板間の配線や半田付けを極力減らすため,基板はできるだけ長く1枚にまとめるのが常識であった」という事実を重視した。この点は原告社内の説明書(甲12)でも当業者の常識として認められていた。そうすると,甲3発明・甲4発明のように1枚の基板にLED単位数の最小公倍数個のLEDを搭載した短尺基板を,あえて複数枚ライン方向に並べる構成は,通常の技術者であれば阻害要因があり採用しないものである。また甲5発明のように1枚に174個搭載する長尺基板から,最小公倍数である6個に減らして基板枚数を増やすという変更も,当該技術常識に反するため動機付けがない。むしろ本件発明は,当時の常識に逆行する発想により,基板を汎用の小サイズに統一しつつライン長を自由に調整できるようにした点に技術的意義があり,当業者が容易に想到できたものとは認められない。本件発明3も同様の理由で甲各発明とは同一とはいえず,進歩性も肯定された。以上により本件審決に違法はなく,原告の請求は棄却された。本判決は,業界の技術常識を丁寧に認定したうえで,常識に反する発想の転換を含む発明の進歩性を肯定した事例として,特許実務上参考になる。