AI概要
【事案の概要】 本件は、矢田部ギルフォード性格検査(YG性格検査)の昭和41年版検査用紙(以下「昭和41年用紙」)について共有著作権を主張する原告が、同用紙を複製して作成された回答方法説明用紙と個人判定表(被告用紙1・2)を発行・販売する被告に対し、著作権(複製権・譲渡権)に基づく差止め・廃棄と、約2640万円の損害賠償を求めた事案である。 昭和41年用紙はP2が昭和41年に創作したもので、P2は昭和50年に「日本心理テスト研究所」の名で個人事業を開始し、平成元年に法人化して被告会社を設立、原告(P2の実子)が代表取締役、P2が監査役に就任した。被告は昭和61年頃からYG性格検査用の各種用紙を継続して発行・販売してきた。P2は平成10年に公正証書遺言、平成13年に自筆証書遺言を作成し、同年に死亡。法定相続人は妻P3、原告、養子P4・P5の4名であった。P3が過去に提起した別訴では、P2が原告や被告に著作権を譲渡・許諾したとは認められないとされて確定していた。原告は平成28年に代表取締役を辞任した後、本件訴訟を提起した。 【争点】 主たる争点は、(1)本件著作権の帰属(遺言により被告等に遺贈されたのか、法定相続により原告も持分を取得したのか)、(2)P2から被告への昭和41年用紙の利用許諾の有無、(3)原告ら相続人による被告への利用許諾の有無と許諾範囲の逸脱、(4)権利濫用の成否、(5)損害額である。被告は遺言により著作権が被告等に遺贈されたと主張し、仮にそうでなくともP2から無償の利用許諾があり、原告の請求は権利濫用であると争った。 【判旨】 大阪地裁は原告の請求をいずれも棄却した。まず著作権の帰属について、公正証書遺言8条は「著作物(手引き、テープ等)」という有体物の所有権の帰属を定めたものであり、7条および自筆証書遺言7条は金銭債権である印税債権の相続を定めたものに留まるとし、いずれも本件著作権(著作財産権)そのものの帰属を定めたものではないと判断した。したがって原告は法定相続により6分の1の共有持分を有する。 しかし裁判所は、P2が被告設立時から、被告がYG性格検査事業を遂行するのに必要な期間・範囲において、昭和41年用紙を無償で利用することを許諾していたと認定した(本件利用許諾契約)。その根拠として、昭和41年用紙はYG性格検査の実施に不可欠であり被告事業の基盤であったこと、P2が竹井機器工業との出版販売契約を通じて被告に収益を得させていたこと、P2が生前に被告の回答方法説明用紙や判定用紙の発行に異議を唱えず使用料を請求していないこと、別訴対象用紙とは異なり本件用紙についてはP3ら他の相続人も異議を述べていないことなどが挙げられた。 原告の「原告の関与や対価支払が利用許諾の前提である」との主張については、P2への月額10万円の監査役報酬は事業創始者に対する顧問料ないし生活保障的なものに過ぎず、被告による著作物利用にP2の同意や関与が必須であったとは認められないと退け、原告が代表取締役を退任した後の発行等も利用許諾の範囲内と判断した。以上により、原告は差止・廃棄請求権も損害賠償請求権も有しないとして、全請求が棄却された。