殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、平成19年頃から約10年間、きょうだいとともに養父Aから、殴打、長時間の正座、暴言といった身体的・精神的虐待を日常的に受けていた。さらに平成27年秋頃、Aが被告人の1歳下の妹に対し小学生の頃から常習的に性交するなど性的虐待を加えていた事実を知り、Aへの強い恨みを抱いた。母親は平成28年11月にAと離婚し、以降被告人はAと接触していなかったが、憎しみは消えず、時折Aの死を望むようになった。平成30年頃には児童虐待報道に接するなどして怒りが深まり、平成31年4月5日夜、母親が弟を足で転ばせる場面を目にして感情を抑えきれず交番に相談したものの、かえってAへの殺意を強めた。翌6日、被告人はA殺害を決意し、自宅から刃体約17センチメートルの包丁を持ち出してA方付近で約2時間半待ち伏せし、帰宅したA(当時50歳)の背中を数回突き刺すなどして殺害しようとしたが、Aの命乞いと幼少期の楽しかった記憶を思い出したことから自ら犯行を中止し、Aに全治約1週間の背部切創等を負わせるにとどまった。殺人未遂(中止未遂)および銃砲刀剣類所持等取締法違反(刃物携帯)で起訴された。 【判旨(量刑)】 札幌地裁は被告人を懲役3年に処し、5年間の執行猶予を付した(求刑懲役4年)。量刑上、犯行態様については、約2時間半の待ち伏せ、強固な殺意、自宅から持参した包丁で背中や腕を少なくとも7、8回以上刺したり切り付けたりした点を捉え、中止未遂により結果は軽傷にとどまったとはいえ、刺さった位置が僅かにずれていれば命が失われる危険性が高く、執拗で危険かつ悪質であると厳しく評価した。他方、動機・経緯については、長期にわたる自身への虐待および妹への性的虐待に対する強い憤りは同情すべきであり刑事責任の検討に相応に酌むことができるとしつつも、報復としての殺害が正当化されるものではなく、憎悪を和らげる他の手段や距離を置く機会が十分にあったと指摘した。児童虐待の抑止という動機も「浅はかで独りよがり」として斥けた。本件が同種事案中最も軽い部類に属するとはいえないが、経緯面に実刑選択をためらわせる要素があることも否定し難いとした。一般情状として、被害者自身が虐待に原因の一端があることを認めて示談が成立し、厳罰を望まず許す旨述べていること、被告人が真摯に反省し家族・知人・医療機関に相談する旨約束していること、母親の支援や友人による雇用予定など更生環境が整っていること、若年で前科前歴がないことを総合考慮し、執行猶予が相当と判断した。被虐待者による報復的加害における情状酌量の在り方と、中止未遂・示談・更生環境を踏まえた執行猶予判断の一例として参考になる事案である。