家畜伝染病予防法違反幇助,関税法違反幇助,家畜改良増殖法違反
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、自ら牧場を経営していた被告人が、牛の受精卵及び精液を中華人民共和国に不正に輸出しようとした共犯者らの犯行を幇助するとともに、家畜改良増殖法に違反して受精卵等を証明書を添付せずに譲り渡したという事案である。 牛の受精卵や精液は、家畜の体内に直接移植して繁殖させるために使われるものであり、病原体が含まれていれば輸出先に伝染性疾病を広げる危険があるため、輸出に際しては家畜防疫官の検査と輸出検疫証明書の交付を受けることが義務付けられている。また、貨物として国外に持ち出す以上は税関長への申告と許可も必要である。さらに、日本と中華人民共和国との間では牛の受精卵等に関する家畜衛生条件が締結されていないため、仮に検査を受けたとしても輸出検疫証明書の交付自体が受けられない状況にあった。 平成30年6月、共犯者らは、こうした法定の手続を一切経ないまま、牛の体内受精卵を注入したストロー235本と人工授精用精液を注入したストロー130本を、中国船籍の貿易船の客室に手荷物として持ち込み、大阪港から中国へ向けて不正に輸出した。被告人は、この犯行に先立ち、氏名不詳者からの依頼を受け、自らの牧場の在庫であった受精卵及び精液を、必要な証明書を添付しないまま代金473万円で譲渡し、事情を知らない叔父を介して共犯者側に届けさせることで、上記密輸出を容易ならしめた。 【判旨(量刑)】 大阪地裁は、被告人を懲役1年(執行猶予3年)に処し、報酬として得た473万円を追徴するとともに、その仮納付を命じた。 量刑の理由として、裁判所はまず、輸出された受精卵等が多量であり、家畜への直接移植と繁殖を予定する物であることから、病原体が含まれていれば輸出先国への伝染性疾病の伝播を招く危険が高く、ひいては日本の畜産物に対する家畜衛生上の国際的信用を失わせかねないと指摘した。加えて、中国との間で家畜衛生条件が締結されておらず、正規の手続によっては輸出検疫証明書が交付されない物を敢えて密輸出している点は、犯行の悪質性を高める事情であると評価した。そのうえで、被告人は自らの牧場の在庫を正犯者に譲り渡すという犯行に不可欠な行為を473万円もの対価を得て行っており、幇助とはいえその寄与の程度は高いと認めた。 他方、被告人に特段の前科がないこと、事実を認めて反省していること、家畜人工授精師の免許を返上し牧場を廃業するなどの措置を講じていること、叔父が被告人のために証言したことなど、被告人に有利な事情も認められることから、懲役1年に処したうえでその執行を3年間猶予するのが相当であると判断した。