審決取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「紙製包装容器の製造法及び紙製包装容器」(特許第4831592号)の特許権者である被告(テトラ ラバル ホールディングス)に対し、原告(エスアイジー テクノロジー)がその請求項2及び3について特許無効審判を請求したところ、特許庁が被告による訂正を認めた上で請求不成立の審決を下したことから、原告がその取消しを求めた審決取消訴訟である。 本件特許は、ジュースや牛乳など液体食品の紙パック容器に関するもので、ウェブ状の包装材料を縦線シールでチューブ状に成形し、内容物を充填したうえで横方向にシールして一次形状容器を形成し、最終的に折目線に沿って折り畳んで頂部、側壁、底部を持つ容器に成形するというものである。特徴的なのは、頂部が「片流れ屋根形状」(前面パネルが裏面パネルより低い傾斜屋根型)になっており、頂部の横線シールが裏面側に倒され、折り込み片が側壁面上に斜めに折り込まれるという構造である。被告は訂正によって「前面パネル」「裏面パネル」「側面パネル」等の用語でシール位置やパネル高さ関係を明確化した。 原告は、審判手続において、独国実用新案第29716230号明細書(甲5)を主引用例として、本件発明は当業者が容易に想到できたものであり進歩性を欠くと主張したが、特許庁は、甲5発明と本件発明との間には「横線シールが前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置する」点等に相違点があり、この構成は容易想到とはいえないとして請求不成立の審決を下した。 【争点】 原告の取消事由は多岐にわたるが、中核は、①請求項2の訂正が実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものかどうか(訂正要件)、②本件発明の明確性要件適合性、③甲5発明を主引用例とする本件発明2及び3の進歩性判断の当否である。とりわけ重要なのは、甲5の図4に描かれた包装容器において「横線シールが裏面側に位置する」構成が開示されているといえるかという、相違点Aの認定の当否であった。 【判旨】 知財高裁は、まず訂正要件及び明確性要件違反をいう取消事由は理由がないとしたうえで、進歩性に関する取消事由について次のように判断し、本件審決を取り消した。 甲5の図4には横線シール部分そのものの図示はないものの、同図の包装容器は「上面が傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」と明記されていること、本件優先日(平成12年7月31日)当時、紙製包装容器において横線シールを横方向に横断的に設け、対向するシール領域同士が同じ長さとなる構造とすることは技術常識であったこと、甲5考案の特徴は封印要素と蓋要素の接続にあり横シール部分は考案特定事項ではないから図示省略は不自然でないこと、片流れ屋根形状でシール領域が同じ長さとなる設計上、横線シールは必ず裏面に近い後方寄りに位置することになることを総合すると、甲5には「頂部の横線シールが前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置し、裏面パネル側に倒される」構成が開示されていると認められる。したがってこの構成は相違点ではなく一致点であり、これを相違点と認定したうえで容易想到性を否定した審決の判断は、前提において誤りである。本件発明3についても同様の誤りがあるから、その余の点について判断するまでもなく、本件審決は取り消されるべきである。 本判決は、刊行物に明示的に図示されていない構成であっても、当業者の技術常識と当該刊行物の記載内容を総合して判断すれば開示があったと認められる場合があることを示したもので、進歩性判断の前提となる引用例の理解のあり方について実務的に意義を有する。