マイナンバー(個人番号)利用差止等各請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、マイナンバー(個人番号)制度の違憲性を主張して原告ら(住民)が国を被告として提起した差止・国家賠償請求訴訟である。マイナンバー制度は、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号利用法)に基づき、平成27年10月から個人番号の指定・通知が開始され、平成28年1月から税・社会保障・災害対策の3分野における個人番号の利用が始まった制度である。全国民一人ひとりに住民票コードを変換した11桁の番号を付番し、複数の行政機関に分散する個人情報を名寄せ・突合して、行政運営の効率化、公正な給付と負担の確保、国民の利便性向上を図ることを目的としている。 原告らは、被告(国)がマイナンバー制度を構築し番号利用法に基づき原告らの特定個人情報を収集、保存、利用、提供する行為は、憲法13条が保障するプライバシー権(自己情報コントロール権)を侵害する違憲な行為であるとして、被告に対し、プライバシー権に基づく妨害予防・排除請求として個人番号の収集・保存・利用・提供の差止め及び既に保存されている個人番号の削除を求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づき、権利侵害による慰謝料等各11万円の支払を求めた。原告らの主張する自己情報コントロール権は、個人情報をみだりに開示等されない自由(開示等されない自由)と、自己の意思に反して脆弱なネットワークシステムに接続されない自由(接続されない自由)の2つの内容を含むものとされた。 【争点】 主な争点は、原告ら主張の自己情報コントロール権が憲法上保護されるか、マイナンバー制度による個人番号・特定個人情報の利用が原告らの権利・法的利益を侵害するか、差止請求権及び慰謝料請求権が認められるかである。原告らは、番号制度が制度面・システム面・人的要因のいずれにおいても脆弱であり、個人情報漏えいやプロファイリングの具体的危険があると主張したのに対し、被告は、自己情報コントロール権の外延は不明確で差止請求の根拠となる実体法上の権利とは認められず、番号制度は目的・手段の両面で正当性と合理性を備えていると反論した。 【判旨】 名古屋地裁は原告らの請求をいずれも棄却した。最高裁平成20年3月6日判決(住基ネット判決)等を引用し、憲法13条により、個人情報をみだりに収集・保管・開示・公表されない自由が法的利益として保障されることは認めた上で、マイナンバー制度の運用によって当該自由が侵害されるかは、取り扱われる個人情報の秘匿性の程度、法令等の根拠の有無及び行政目的の相当性、法制度上又はシステム技術上の不備による情報漏えい等の具体的危険の有無等に照らして判断すべきとした。その上で、個人番号自体はプライバシーに属する情報を含まないこと、特定個人情報の利用・提供は番号利用法9条・19条により限定列挙されていること、行政運営の効率化・公正な給付と負担の確保・国民の利便性向上という目的はいずれも正当であること、分散管理、アクセス制御、情報提供用個人識別符号によるひも付け、通信等の暗号化、LGWANによるインターネットからの隔離といったシステム上の保護措置が講じられていること、過失や不正による漏えい事例は発生しているものの、これらは法制度やシステム自体の不備に起因するものではなく、名寄せ・突合による具体的危険は認められないことなどを総合考慮し、番号制度の運用によって原告らの個人情報をみだりに収集・保管・開示・公表する具体的危険があるとはいえず、原告らの権利・法的利益は侵害されていないと結論づけた。本判決はマイナンバー制度の合憲性を正面から認めた下級審判決の一つであり、同種訴訟が全国で提起されるなかで注目された事例である。