AI概要
【事案の概要】 本件は、生春巻きの製造販売を手がける控訴人(一審原告)が、カット野菜等を製造販売する被控訴人(一審被告)に対し、控訴人の生春巻き製造方法が不正競争防止法上の営業秘密に当たるとして、合計3300万円の損害賠償を請求した事案の控訴審である。控訴人は「崔さんのお店」のブランドで全国のコンビニエンスストアやスーパーに生春巻きサラダ等を卸す会社である。 事の発端は平成25年7月3日、被控訴人代表者が取引先のマックスバリュ九州から生春巻きの製造を依頼されたため、紹介を受けた控訴人に電話で工場見学を申し入れ、同日あるいは翌日に控訴人工場を訪れて製造工程を見学し、製造方法の説明を受け、許可を得て写真撮影も行ったというものである。控訴人側は当時九州に生産拠点を持たず、被控訴人が九州における協力工場となってくれることを期待して見学を許可した。しかしその後の協力工場化の協議は同年8月頃に決裂し、被控訴人は平成28年9月頃から独自に生春巻きを製造して関西圏の大手スーパーに卸し始めた。 控訴人は、生春巻きを大量かつ安定的に製造するためにライスペーパーを戻すお湯の温度を調整するというノウハウが営業秘密であり、被控訴人がこれを不正取得して競業行為に及んだとして、逸失利益2000万円、営業秘密を第三者に吹聴した不法行為に基づく1000万円、弁護士費用300万円の支払を求めた。原審大阪地裁は請求をすべて棄却し、控訴人が控訴した。 【争点】 争点は、(1)控訴人主張の製造ノウハウが不正競争防止法2条6項の営業秘密(秘密管理性・有用性・非公知性)に該当するか、(2)被控訴人が当該情報を不正取得したといえるか(協力工場となる意思がないのに見学を申し込んだ欺罔の有無、商圏の重なる父親の同業会社の存在を秘匿した欺罔の有無、不正競業の意図の有無)、(3)被控訴人代表者による吹聴行為が不法行為を構成するか、(4)損害額、の4点である。 【判旨】 大阪高裁は控訴を棄却した。まず争点1につき、控訴人のウェブサイトに製造ライン写真が掲載されていることなどから、少なくとも製造工程全体をライン上で行う点については公知というべきで、また短時間の初対面の申入れで工場見学と撮影を許可し、秘密保持契約も締結していなかったことからすると秘密として管理されていたとは認め難いとして、不正競争防止法上の営業秘密には当たらないと判断した。協力工場化を前提とした秘密保持の黙示合意があったとの控訴人の主張についても、見学当日に送られた礼状メールに協力工場化を前提とする文言がなく、見学前に具体的条件の協議も行われていないことから、そのような合意の成立を否定した。 争点2については、被控訴人代表者は見学当日の礼状で父の同業会社の存在にも言及しており、商圏の重なりを秘匿したとはいえず、また見学から実際の生春巻き製造開始まで3年以上経過していることから、見学時に関西で競業する意図を持っていたとは認められず、仮に営業秘密を認識し得たとしても不正取得は成立しないとした。 争点3の吹聴についても、そもそも営業秘密性が否定される以上、吹聴行為が不法行為・営業妨害を構成することもないとし、加えて控訴人の損害発生についても具体的な説明がないと指摘した。 本判決は、工場見学を通じた製造ノウハウの伝授につき、秘密管理性の要件を厳格に判断し、形式的な秘密保持契約の有無や見学許可の経緯を重視した事例として、食品製造業を含む中小企業の営業秘密管理実務に示唆を与えるものである。