停職処分取消請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成29行ヒ320
- 事件名
- 停職処分取消請求事件
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 裁判年月日
- 2018年11月6日
- 裁判種別・結果
- 判決・破棄自判
- 裁判官
- 岡部喜代子、山崎敏充、戸倉三郎、林景一、宮崎裕子
- 原審裁判所
- 大阪高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 加古川市の男性職員である原告(自動車運転士、主に一般廃棄物の収集・運搬業務に従事)は、平成22年頃から、勤務時間中に市章の付いた制服を着用したまま、市内のコンビニエンスストアを頻繁に利用するようになった。その際、原告は店舗の女性従業員らを不快にさせる不適切な言動を繰り返しており、これを理由の一つとして退職した女性従業員もいた。 平成26年9月30日午後2時30分頃、原告は勤務時間中に制服姿で同店舗を訪れ、顔見知りであった女性従業員に飲物を買い与えようとして、自らの左手を従業員の右手首に絡めてショーケースまで連れて行き、次いで右腕を従業員の左腕に絡めて歩かせ、さらに右手で従業員の左手首をつかんで引き寄せ、その指先を制服の上から自らの股間に軽く触れさせた。従業員は手を振りほどいて店舗の奥に逃げ込んだ。 店舗オーナーからの申告と神聞報道を契機として、加古川市は事情聴取を経て、平成26年11月26日付けで原告に対し地方公務員法29条1項1号・3号に基づき停職6月の懲戒処分をした。本件処分の直接の対象は9月30日の行為(行為1)であり、従前の不適切な言動(行為2)は行為1の悪質性を裏付ける事情とされた。原告は、処分は重きに失し裁量権を逸脱・濫用したものであるとして、処分の取消しを求めて出訴した。第1審・原審はいずれも原告の請求を認容したため、市側が上告した。 【争点】 停職6月という懲戒処分の選択が、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるかが争点である。具体的には、被害従業員が身体的接触に終始笑顔で応じていたこと、被害者側が処罰を望まず警察沙汰にもなっていないこと、原告に過去の懲戒歴がないこと等を処分の重さを否定する方向で評価すべきかが問題となった。 【判旨】 最高裁は原判決を破棄し、第1審判決を取り消して、原告の請求を棄却した。 公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は諸般の事情を考慮して処分の要否及び種類を決定する裁量権を有しており、その判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱・濫用したと認められる場合に違法となる(最判昭52・12・20等参照)との従来の枠組みを前提とした上で、原審の評価には誤りがあるとした。 すなわち、①被害従業員と原告とはコンビニの客と店員の関係にすぎず、従業員が抵抗を示さず終始笑顔で対応したとしても、客とのトラブルを避けるためと見る余地があり、同意があったとして原告に有利に評価するのは相当でない。②被害者側が処罰を望まないのは、事情聴取の負担や営業への悪影響を懸念したためとも解され、これを重視すべきではない。③身体的接触を伴うか否かはともかく、原告が以前から店舗従業員らを不快にさせる不適切な言動を繰り返しており、これを理由に退職した女性従業員もいた事情(行為2)は、量定上軽視できない。④行為1が勤務時間中に市章付き制服を着用してなされ、複数の新聞で報道され市側が記者会見を行うに至ったことからすれば、市の公務一般に対する住民の信頼は大きく損なわれており、社会的影響は決して小さくない。 そして、本件処分は停職の上限である6月であり過去の懲戒歴もない点で相当に重い処分であることは否定できないが、客と店員という拒絶困難な関係に乗じて行われた厳しく非難されるべき行為であり、住民の信頼を大きく損なうものであること、従前から同店舗で不適切な言動を繰り返していたこと等に照らせば、停職6月の処分が社会観念上著しく妥当を欠くとまではいえず、裁量権の逸脱・濫用には当たらない。セクシュアル・ハラスメント事案における懲戒処分の量定について、被害者の表面的態度や宥恕の意向を処分者側に有利に過度に斟酌することを戒め、公務員の非違行為が住民の信頼に与える影響を重視した点に、本判決の実務的意義がある。