意匠権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、検査用照明器具に関する部分意匠(意匠登録第1224615号、意匠に係る物品「検査用照明器具」)を保有する原告(検査・観察用途の照明機器メーカー)が、同種の検査用照明器具を製造販売する被告に対し、被告が製造販売した6種類の製品(イ号物件からヘ号物件)の意匠が原告の部分意匠に類似するとして、意匠法37条に基づく製造販売等の差止めおよび廃棄、並びに意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償と不当利得返還を求めた事案である。 原告の本件意匠は、工場等で製品の傷やマークの検出に用いられるLED照明器具のうち、発光部の反対側に設けられた放熱用の後方部材(支持軸体に複数の円盤状放熱フィンが間隔をあけて配置される形態)を対象とする部分意匠であった。被告は平成22年頃からイ号物件ないしハ号物件(同軸スポット照明・赤外照明)を製造販売していたが、平成28年10月頃に原告から権利行使を受けて当該製品の販売を中止し、その後継としてニ号物件ないしヘ号物件を新たに投入していた。後継製品は、中間・後端フィンの外周に約60度の範囲で切り取ったフラット面を設け、フィン前面の縁に大きめのテーパーを施している点で前製品と形状が異なっていた。被告は自らも類似形態の意匠登録(被告登録意匠)を取得しており、本件意匠には新規性欠如や創作容易性など多数の無効理由があると反論した。 【争点】 主な争点は、被告製品の意匠が本件意匠に類似するか(争点1)、本件意匠が意匠登録無効審判により無効にされるべきものか(争点2)、被告による侵害のおそれの有無(争点3)、および損害額・寄与度(争点4)である。 【判旨】 大阪地裁は、まず争点2について、被告が提出した公知意匠(タワー型ヒートシンク、同軸スポット照明の旧製品、検査用照明器具の意匠公報など)を個別に検討し、いずれも物品の同一性を欠くか、支持軸体の太さ・フィン間隔・後端面の平滑性などの点で本件意匠との差異が大きく、あるいは組合せによっても本件意匠を創作容易とはいえないとして、全ての無効理由を排斥した。特に、放熱フィンの後端面および各フィン面に貫通孔がなく平滑であるという構成態様(構成態様M)は、従前の検査用照明器具には見られない新規な創作部分であり、需要者の注意を惹く要部に当たると認定した。 争点1については、類否判断を需要者(検査を必要とする製造業者等)の視覚を通じた美感により行うべきとし、本件意匠の要部として、後方部材の全体配置、フィン枚数(中間2枚・後端1枚)、支持軸体とフィンの径比(約5分の1)、フィン間隔(径の約8分の1)、およびフィン各面が平滑であることを摘示した。イ号物件からハ号物件については、後端フィンにねじ穴はあるものの中間フィンに貫通孔がなく、後方から観察しない限りねじ穴を認識しにくいとして、要部における共通性が大きく、全体として共通の美感を生じさせるから本件意匠に類似すると判断した。他方、ニ号物件からヘ号物件については、フィン外周のフラット面およびフィン前面の大きなテーパーが視覚的に強い印象を与えるとして、需要者に別異の美感を生じさせ、本件意匠に類似しないとした。 争点3では、被告が製造販売を自発的に中止してから約2年経過していたものの、長年にわたり販売していた経緯と訴訟での争いぶりから、侵害のおそれはなお消滅していないとして差止めを認める一方、現に在庫を保有する証拠がないとして廃棄請求は棄却した。争点4については、被告製品全体に占める後方部材の面積比および製造原価比が低く、原告・被告ともに販売時の宣伝で本件意匠そのものには言及していないこと、需要者が主に照明性能・機能に着目して購買すると認められることから、本件意匠の寄与度は小さいと評価し、意匠法39条2項に基づく損害額、意匠の実施に対し受けるべき実施料相当額(不当利得)のいずれも、通常の実施料率に小さな寄与度を乗じた額を採用した。悪意の受益者性は否定された。結論として、イ号物件ないしハ号物件の差止めと、損害金・弁護士費用および不当利得返還の一部(合計289万5387円および遅延損害金)を認容し、ニ号物件ないしヘ号物件の差止請求、廃棄請求およびその余の金銭請求はいずれも棄却された。部分意匠における要部認定にあたり、破線部分(電源ケーブル引出口の位置)自体は権利対象外としつつも、部分意匠と物品全体との位置・大小関係や新規創作部分を重視する類否判断手法を具体的に示した点に実務的意義がある。