AI概要
【事案の概要】 中国地方を中心に電力事業を営む原告(中国電力株式会社)は、長年にわたり「EnerGia」の欧文字や「エネルギア」の片仮名をシンボルマーク・キーコンセプトとして使用し、同社のブランドを象徴する商標群(引用商標1~4)を保有してきた。平成3年の制定以来、会社案内、季刊誌、パンフレット、広告、CM、イベントなど多方面で使用され、「エネルギア」の称呼により原告グループの業務を示す表示として広く知られるに至っていた。 一方、被告(株式会社エナジア)は、平成27年2月に「エナジア」の片仮名と五個の四角形を組み合わせた図形からなる結合商標(本件商標)を出願し、第39類「電気の供給」や再生可能エネルギー関連の役務等を指定役務として登録を受けた。被告は出願後、審査官の拒絶理由通知を受けて指定役務を補正しており、再生可能エネルギーによる熱の供給・発熱に関するコンサルティング等が後に明記された経緯がある。 原告は、本件商標が自社の引用商標群と類似し、需要者に出所の混同を生じさせるおそれがあり、また指定役務の補正は要旨変更に当たるなどとして、特許庁に無効審判を請求した。しかし特許庁は平成30年3月、請求を不成立とする審決をしたため、原告が同審決の取消しを求めて本訴を提起した。商標の称呼・観念をどう捉えるか、とりわけ欧文字「EnerGia」が「エネルギア」と「エナジア」の双方の称呼を生じるか否かが、実務上の先例と関係する重要な争点となった。 【争点】 争点は、①本件商標と引用商標の類否判断の当否(商標法4条1項11号)、②引用商標の周知性を踏まえた出所の混同のおそれの有無(同項15号)、③指定役務の補正が要旨変更に当たるか(同法8条1項・9条の4)の三点である。特に、欧文字「EnerGia」が一種の造語であることを前提に、取引者・需要者が「エネルギア」のみならず「エナジア」とも称呼し得るといえるかが中心に争われた。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を棄却した。まず商標法4条1項11号該当性について、引用商標1・2の欧文字「EnerGia」はスペイン語等で「エネルギー」を意味する綴りと同一ではあるものの、我が国では造語と理解されるとした上で、原告が平成3年以降「エネルギア」という称呼を企業理念のキーコンセプトとして全国的に宣伝・使用してきた実績に照らせば、引用商標1・2は「エネルギア」の称呼のみを生じ、原告のブランドという観念を生じると認定した。引用商標3・4についても、上下二段併記の構成から、片仮名「エネルギア」が欧文字の読みを特定したものと自然に理解できるとして、同じく「エネルギア」の称呼のみを生じるとした。これに対し本件商標は「エナジア」の称呼しか生じず特定の観念も生じないから、外観・称呼・観念のいずれにおいても両商標は相紛れるおそれがなく非類似であると判断した。原告が主張した「採択の経緯」や被告ホームページでの「energia」との併用は、指定役務全般についての一般的・恒常的な取引実情に当たらず考慮できないとした。 次に同項15号該当性について、本件商標と引用商標・使用商標とは類似性の程度が低く、引用商標等の周知性や指定役務の関連性を踏まえても、取引者・需要者が原告グループの役務と誤信するおそれはないとした。 さらに同法8条1項について、本件補正は出願時の願書に既に記載されていた「熱の供給」等の範囲内で役務内容を明確化したにすぎず、指定役務の同一性を実質的に損なうものではないから要旨変更には当たらないとし、出願日は繰り下がらず、引用商標5(「エナジア」の片仮名)との先後関係で問題は生じないと結論付けた。 本判決は、周知商標の称呼が企業努力により一つに固定されてきたとみられる場合には、当該商標から他の外来語的な称呼も生じ得るとの一般論だけで類似性を導くことはできないとの判断枠組みを示した点に実務的意義がある。