AI概要
【事案の概要】 本件は、商標登録の無効審判請求が不成立となった特許庁の審決の取消しを求めた行政訴訟である。原告は中国電力株式会社で、中国地方で「電気の供給」等を行う電力会社である。原告は、平成3年にキーコンセプトとして「ENERGIA」を制定し、これを「エネルギア」と称呼してシンボルマークやコミュニケーションペーパーの表題等に長年にわたり使用してきた。そして、 「EnerGia」の欧文字と帯状の図形を組み合わせた引用商標1(指定役務「電気の供給」)や、「エネルギア」の片仮名と「EnerGia」の欧文字を上下二段に配した引用商標2(指定役務は第35類の広告業、経営コンサルティング等)の商標権を保有していた。 一方、被告は株式会社エナジアで、平成27年に片仮名「エナジア」(標準文字)を第35類の広告業、経営コンサルティング等を指定役務として商標登録した(本件商標)。これに対し原告は、本件商標は引用商標2と類似し(商標法4条1項11号)、かつ原告の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある(同項15号)として無効審判を請求したが、特許庁が請求不成立の審決をしたため、その取消しを求めて本訴を提起した。なお、原告は、欧文字「EnerGia」はスペイン語等で「エネルギー」を意味するものの、我が国の取引者・需要者には馴染みのない語であり、英語「energy」をもじった「エナジア」の称呼も生じ得ると主張した。 【争点】 ①本件商標と引用商標2の類否判断の誤りの有無(商標法4条1項11号該当性)、②本件商標について原告の業務に係る商品又は役務との混同を生ずるおそれの判断の誤りの有無(同項15号該当性)である。類否判断の核心は、二段併記された引用商標2について、下段の欧文字「EnerGia」から「エナジア」という称呼が生じ得るか、それとも上段の片仮名「エネルギア」が下段の読みを特定したものとして「エネルギア」の称呼のみが生じるかという点にあった。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を棄却した。 まず4条1項11号該当性について、引用商標2の上段「エネルギア」は下段「EnerGia」とほぼ同一の幅で記載され、その構成文字に照らし下段の称呼を特定したものと無理なく理解できるから、引用商標2全体として「エネルギア」の称呼のみを生じると認定した。他方、本件商標「エナジア」は、その構成文字どおり「エナジア」の称呼を生じる。両者は外観が明らかに相違し、「ナジ」と「ネルギ」という中間音の差異が4音と5音の短い音構成全体に及ぼす影響は大きく、離隔的観察でも称呼の違いは十分認識できる。観念についても、本件商標は造語で特定の観念を生じないのに対し、引用商標2は原告のブランドとの観念を生じるので比較することができない。結局、両商標は相紛れるおそれのない非類似の商標である以上、指定役務の類否を判断するまでもなく4条1項11号には該当しないと判示した。 また、原告が主張した「本件商標の採択の経緯」や被告ホームページでの「energia」併記使用等は、指定役務全般についての一般的・恒常的な取引の実情ではなく、個別具体的な使用例にすぎないため、類否判断において考慮することは許されないとした。審判便覧53-01に基づく分離観察可能性の主張についても、同便覧は商標法50条の不使用取消審判における「社会通念上同一の商標」の解釈に関するものであり、4条1項11号の類否判断には参考とならないと退けた。 次に4条1項15号該当性については、最高裁平成12年7月11日判決の判断基準に従い、商標の類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、指定役務の関連性、取引者・需要者の共通性等を総合的に判断すべきとした上で、引用商標1や使用商標「EnerGia」が全国で「電気の供給」等エネルギー関連役務につき周知性を有すると認められるものの、本件商標とは外観・称呼・観念のいずれにおいても相紛れるおそれがなく類似性の程度が低いため、指定役務の関連性が高いことを考慮しても、出所の混同を生ずるおそれは認められないとした。以上により、本件審決の判断に違法はないとして原告の請求を棄却した。本判決は、片仮名と欧文字を二段併記する商標について、片仮名が欧文字の読みを特定する構成であれば、欧文字から別の称呼を観念する余地は限定されるという実務上重要な判断を示したものである。