違憲国家賠償請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、ハンセン病患者であった亡Fの相続人らが、国の誤ったハンセン病強制隔離政策によってFが人権侵害を受けたとして、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めた事案である。Fは昭和54年3月28日に死亡し、その権利を唯一の相続人であったEが相続し、さらにEの相続人である控訴人ら(A・B・C・D)がこれを承継したと主張した。控訴人らは、らい予防法(昭和28年法律第214号)施行日である昭和28年8月15日から支払済みまで年5分の遅延損害金とともに、控訴人Aに990万円、その余の控訴人らに各660万円の支払を請求した。 ハンセン病患者に対する強制隔離政策をめぐっては、平成13年5月の熊本地裁判決(いわゆるハンセン病国賠訴訟)が国の責任を認め、これを受けて国は謝罪し、ハンセン病補償法が制定されるなど、被害救済の枠組みが整備されてきた。本件は、既に死亡した患者本人の損害賠償請求権を相続人が行使できるかという除斥期間の問題が正面から争われた事案であり、原審は控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らが控訴を提起した。 【争点】 本件の中心的な争点は、民法724条後段の除斥期間(不法行為の時から20年)の起算点及びその適用制限の可否である。控訴人らは、①死者に対する名誉権侵害は観念でき、らい予防法が廃止された平成8年3月末日までFの名誉権侵害が継続していたから、除斥期間の起算点は平成8年4月1日であり、平成28年3月31日の提訴時点で除斥期間は経過していない、②仮に起算点がF死亡日(昭和54年3月28日)であっても、最高裁平成10年判決・同平成21年判決の趣旨に照らし、加害行為の不当性が高く救済の必要性が大きく、かつ国自らが賠償義務を承認していた特段の事情があるから、除斥期間の適用は制限されるべきである、と主張した。 【判旨】 大阪高裁は、控訴をいずれも棄却した。 まず、F死亡後については、Fに対する不法行為を新たに観念することはできず、遅くとも死亡日である昭和54年3月28日が民法724条後段の「不法行為の時」として除斥期間の起算点となるとした。控訴人らの請求はFが生前に取得した不法行為債権をEが相続したことを前提とする以上、F死亡後の名誉権侵害を理由に起算点を繰り下げる主張は、この前提と矛盾すると判示した。 次に、除斥期間の適用制限についても否定した。最高裁平成10年判決(心神喪失により法定代理人を欠いていた事案)及び平成21年判決(加害者が被害者死亡の事実を殊更に秘匿した事案)は、いずれも被害者側の権利行使が客観的に不可能であり、かつそれが加害者の行為に起因する場合に、民法158条又は160条の法意に照らして除斥期間の効果を制限したものであると位置づけた。その上で、本件ではEがFのハンセン病療養所収容や死亡の事実を知らなかった等の事情は認められず、熊本地裁平成13年判決の原告らが平成10年ないし11年に提訴できた実例に照らしても、F死亡から20年以内(平成11年3月28日まで)に本件訴訟を提起することが客観的に不可能であったとはいえないと指摘し、上記最高裁判例とは事案を異にするとして、特段の事情の存在を否定した。以上により、原判決は相当であり、控訴はいずれも理由がないとして棄却された。