AI概要
【事案の概要】 被告人は、医師免許を持たないにもかかわらず、平成26年7月から平成27年3月までの間、大阪府内の店舗において、4回にわたり、Bほか2名に対し、針を取り付けた施術用具(タトゥーマシン)を用いて左上腕部等の皮膚に色素を注入する行為(いわゆるタトゥー施術)を業として行った。検察官は、この行為が医師法17条の禁止する「医業」に該当するとして、同法31条1項1号違反により被告人を起訴した。 第一審(大阪地裁)は、医師法17条の「医行為」とは「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」をいうと解したうえで、タトゥー施術は皮膚のバリア機能を損ない、感染症やアレルギー反応等の危険があり、施術者には医学的知識・技能が必要不可欠であるとして、本件行為は医行為に該当すると判断し、被告人を罰金15万円に処した。これに対し、被告人側は、タトゥー施術には医療関連性がなく医師法17条の適用は憲法22条1項(職業選択の自由)、21条1項(表現の自由)、13条(自己決定権)、31条(罪刑法定主義)に違反するなどと主張して控訴した。 【争点】 医師法17条の「医業」の内容となる「医行為」の意義について、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」という保健衛生上の危険性要件に加えて、「医療及び保健指導に属する行為」という医療関連性の要件が必要か否か。そして、タトゥー施術行為が医師法17条の禁止する医行為に該当するか否かが主たる争点となった。 【判旨(量刑)】 大阪高裁は、原判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡した。 裁判所は、医師法1条が医師の職分を「医療及び保健指導を掌ること」と定めていることを踏まえ、医師法17条の医行為とは、保健衛生上の危険性要件に加え、医療及び保健指導の目的の下に行われる行為でその目的に副うと認められるもの(医療関連性)であることが必要であると判示した。保健衛生上の危険性要件のみで判断すると、医師が行うとは想定し難い行為まで処罰対象に包摂され処罰範囲が不当に拡大するおそれがあり、大審院以来の判例の流れに照らしても、最高裁判例は医療関連性を必要とする立場であると理解するのが妥当であるとした。 そのうえで、タトゥー施術について、皮膚に侵襲を伴う行為ではあるものの、装飾的・象徴的・美術的な意義があり社会的風俗という実態があって、歴史的にも医療と関連を有する行為とは考えられてこなかったこと、彫り師が医師とは全く独立した職業として存在してきたこと、施術に求められる本質的内容は技術や美的センス・デザインの素養の習得であって医療従事者の業務とは根本的に異なることなどから、タトゥー施術は医療及び保健指導に属する行為とはいえず医療関連性を欠くと判断した。 さらに裁判所は、仮に医療関連性要件を不要とする解釈をとってタトゥー施術業に医師法17条を適用すれば、彫り師にとって禁止的な制約となり、職業選択の自由(憲法22条1項)との関係で疑義が生じると指摘した。タトゥー施術に必要な医学的知識は限定的であり、海外主要国でも医師免許を要求する例はなく、届出制・登録制・軽易な資格制度や衛生管理基準の策定など、より緩やかな規制によって保健衛生上の危害防止は可能であるから、医師法による規制は目的と手段の関連性において合理性を欠くとした。以上より、本件行為は医師法17条にいう医業に該当せず、罪とならないとして無罪を言い渡した(刑訴法336条)。 本判決は、タトゥー施術の医師法適用について医療関連性要件を明示的に採用し無罪判断を示した初の高裁判決であり、後に最高裁(令和2年9月16日第二小法廷決定)によって支持されることとなる重要判例である。