AI概要
【事案の概要】 本件は、住宅地開発を業とする原告が、自ら開発した住宅地(福岡県糸島市所在)の駐車場部分に太陽光発電設備を設置していたところ、隣接地に被告が住宅地を開発して建物4棟を建築したため、太陽光パネルへの日照が遮られ発電量が大幅に減少したとして、被告に対し不法行為に基づく損害賠償約1189万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 原告は平成22年6月頃から住宅地「A」の開発を開始し、景観への配慮や反射光の問題から屋根ではなく南側駐車場のカーポート屋根部分に太陽光パネルを設置することとした。パネル設置に先立ち、原告は当時の隣地所有者Bから「売却や分譲地としての利用は考えていない」旨の回答を得ていた。平成23年3月に設備が完成し、発電された電力は原告住宅地内の共用施設や街灯で利用され、余剰電力は九州電力に売電して共益費に充てられていた。ところが被告がBから隣地を取得し、平成26年11月以降、パネルの1.25〜1.5メートル南側に2階建て住宅4戸を建築した結果、総発電量が年平均45.5パーセント、売電代金が45.3パーセント減少したというのが原告の主張であった。 【争点】 主たる争点は、被告の建築行為が原告の権利または法律上保護される利益を侵害するものとして不法行為を構成するかという点にある。具体的には、太陽光発電のための受光利益が法的保護に値するか、またその侵害が違法と評価されるかが問題となった。 【判旨】 福岡地裁は、原告の請求を棄却した。 判決はまず、土地上に太陽光発電設備を設けて発電を行うことは土地の使用収益の一内容であり、太陽光の受光はそのための必要不可欠な資源であるとし、エネルギー政策基本法や固定価格買取制度等、再生可能エネルギーの利用促進を国の政策目標として位置付ける各種法令の存在を踏まえれば、太陽光発電を行う者が有する「受光利益」は法律上保護に値する利益に当たると認めた。もっとも、建築基準関係規定にも住宅地における太陽光パネルと近隣建築物の関係を想定した規制はなく、保護範囲について社会的合意のある基準も存在しないこと、発電量や売電益には不安定な要素があることから、受光利益を超えて私法上の権利性までは認められないとした。 そのうえで、受光利益侵害が違法と評価されるのは、法令に違反する建築物による場合や、発電量を著しく減少させるなど侵害の程度が強度といえる場合に限られるとの判断枠組みを示した。本件について当てはめると、(1)被告建物は建築基準法等の関係法令に適合した適法建築であること、(2)被告住宅地も第一種住居地域として住居建築が期待される地域であり、原告としても将来の住宅建築は十分予見可能であったこと、(3)原告が自ら高さ2.5メートル程度の低い壁面にパネルを設置しており、受光阻害の可能性は十分想定できたこと、(4)前所有者Bの回答をもって建築抑制の合意があったとはいえず、仮にあっても買主である被告を拘束しないこと、(5)年度単位でみれば共用部分の必要電力は本件設備で賄われており、コスト削減への影響は大きくないことを指摘した。これらを総合し、侵害の程度は強度とはいえず、本件建築行為は原告の受光利益を違法に侵害するものではないと結論付けた。 本判決は、太陽光発電の普及が進むなかで、隣地建築による受光阻害に関する先例的判断を示したものとして実務上重要な意義を有する。