異議申し立て棄却処分取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、特許権者であった原告が、特許料の追納期間内に特許料等を納付しなかったため消滅したものとみなされた特許権について、特許法112条の2第1項に基づく救済を求めた事案である。 原告は、平成19年11月に「インターネットインタラクティブシステム」に関する特許出願を行い、平成22年6月に特許権(第4527763号)の設定登録を受けた。原告は第1年分から第3年分までの特許料の免除を受けていたが、第4年分の特許料の納付期限である平成25年6月11日までに納付を怠り、同法112条1項の追納期間の末日である同年12月11日までにも、特許料及び割増特許料を納付しなかった。このため、本件特許権は、特許料納付期間の末日に遡って消滅したものとみなされた。 原告は、平成26年4月になって本件特許権の消滅を知り、第4年分及び第5年分の特許料等を納付する旨の納付書を提出するとともに、期間徒過には「正当な理由」がある旨の回復理由書を提出した。しかし、特許庁長官は平成27年3月に納付手続を却下する処分を行い、原告の異議申立ても平成28年12月に棄却された。そこで原告は、却下処分及び異議申立棄却決定の取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料100万円の支払を求めて本訴を提起した。 原告は「正当な理由」として、追納期間中に自らを被害者とする交通事故に関する別件訴訟を追行中で心身に余裕がなかったこと、うつ病を含む複数の神経疾患を抱えて通院していたこと、特許庁から納付期限に関する連絡や請求書の送付がなかったことを主張した。 【争点】 本件の主たる争点は、本件期間徒過について特許法112条の2第1項所定の「正当な理由」が認められるか否かである。同規定は特許法条約(PLT)の「Due Care(相当な注意)」基準を国内法化したものであり、その解釈が問われた。なお、異議申立棄却決定の取消請求については、行政事件訴訟法10条2項により原処分の違法を裁決取消訴訟で主張できないという原処分主義との関係も争点となった。 【判旨】 東京地裁は原告の請求をいずれも棄却した。 まず「正当な理由」の解釈について、特許法112条の2第1項は特許法条約の「Due Care」基準を取り入れて規定されたものであることから、原特許権者として追納期間の徒過を回避するために相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的な事情によりこれを回避することができなかったときをいうと解した。 そのうえで、原告の主張する事情を個別に検討し、①自己の当事者訴訟を追行していたとしても特許料納付期限への注意を払うことは十分可能であること、②本件追納期間中にうつ病等による精神科通院の証拠がなく、むしろ同期間中にほぼ毎週整形外科に通院し、期間経過直後には特許庁への問合せメール送信や納付書提出等の適切な対応をとっていることから、疾病が特許料納付の妨げになる程度のものとは認められないこと、③特許料及びその納付期限は特許法107条以下に定められており、相当な注意を尽くせば容易に知ることができるから、特許庁からの請求書送付がなかったとしても追納期間徒過を回避できなかった客観的事情にはあたらないこと、をそれぞれ判示した。 また、異議申立棄却決定の取消請求については、原処分主義(行訴法10条2項)に基づき、原処分の実体的違法の主張は裁決取消訴訟では許されないとして退け、同条が憲法29条に違反する旨の主張も採用しなかった。国家賠償請求についても、公務員がいかなる職務上の法的義務に違背したのかが明らかでなく、違法性の主張として特定を欠くとして排斥した。本判決は、PLT由来の「相当な注意」基準を具体的事案に適用した実例として、特許権者に課される注意義務の水準を示す意義を有する。