特許権侵害差止等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「下肢用衣料」(女性用ショーツ)に関する特許権を有するトラタニ株式会社(1審原告)が、競合製品(いわゆる立体ショーツ)を製造販売する株式会社タカギおよび株式会社名古屋タカギ(1審被告ら)に対し、被告製品が特許権を侵害するとして、特許法100条に基づく製造販売の差止めおよび廃棄、ならびに民法709条および特許法102条2項に基づく損害賠償を求めた事案の控訴審である。原審(大阪地裁)は、被告製品が本件発明の技術的範囲に属し、本件特許は無効審判によって無効とされるべきものとは認められないとして、差止め、廃棄および損害賠償請求の一部を認容したところ、1審原告と1審被告らの双方が、それぞれ敗訴部分を不服として控訴した。 本件特許発明は、前身頃・後身頃・大腿部パーツから構成され、前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点が「腸骨棘点付近」に位置し、大腿部パーツの山の高さが足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低く、足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも山の幅が広く形成されるという構成により、取付状態で大腿部パーツが前方に突出し、股関節の屈伸運動に伴う生地の抵抗を小さくするというものである。本件特許権は1審原告と訴外の株式会社ゴールドウインテクニカルセンターとの共有であり、訴外会社の持分に基づく損害賠償請求権は1審原告に債権譲渡されていた。 【争点】 主たる争点は、(1)構成要件Dの「腸骨棘点付近」の意義および被告製品の充足性、(2)構成要件FおよびGにおける「前側の湾曲」「湾曲部分」「山」の範囲と被告製品の充足性、(3)明確性要件・サポート要件違反、新規性・進歩性欠如の有無、(4)特許法102条2項の適用の可否(特許権者自らの実施が要件となるか)、(5)共有特許における1審原告が行使可能な損害賠償請求権の範囲、(6)推定覆滅事由の存否などである。 【判旨】 知財高裁は、1審原告・1審被告らの各控訴をいずれも棄却した。 構成要件Dの「腸骨棘点付近」については、本件明細書および文献に照らし「腸骨棘点」は上前腸骨棘を意味すると解しつつも、大腿部を屈曲した姿勢に沿う立体形状とするとの発明の趣旨、着用者の身体的個体差、上前腸骨棘と下前腸骨棘が2〜3cm程度しか離れていないことなどを総合し、「腸骨棘点付近」は上前腸骨棘を中心としつつ下前腸骨棘付近をも含むと解した。その上で、被告製品の宣伝文句(脚口が太ももの付け根に合う、裾がずり上がらない等)から、被告製品は縫合線が鼠径溝に沿うよう設計されていると認め、足刳り形成部の湾曲頂点は「腸骨棘点付近」に位置すると判断した。 構成要件F・Gについても原審の判断を維持し、被告製品のギャザー部起点までが「臀部の隆起に対応させる位置部分の手前」に当たると解した。 無効論については、明確性要件違反の主張は別件無効審決と同一内容であり、特許法167条の趣旨に照らし訴訟上の信義則に反するとして排斥した。新規性・進歩性についても、大腿部パーツの山と足刳り形成部湾曲部分との長さが一致することを前提とする構成要件F・Gの技術的意義を肯定し、先行製品や乙18・29発明との組合せによる容易想到性を否定した。 特許法102条2項の適用については、特許権者が自ら特許発明を実施していることは同項適用の要件ではなく、侵害行為がなかったならば利益を得られたであろう事情があれば足りると判示し、得られなかった事情は推定覆滅事由として考慮すべきとした。共有特許における損害額算定については、持分割合で一律按分するのではなく、共有者各自の実施の程度に応じた逸失利益を推定すべきとしつつ、不実施の他の共有者については同条3項の実施料相当額の限度で推定の一部覆滅を認めた。推定覆滅事由としては、被告製品にハイウエストタイプ・テンセル素材の製品が存在する点で限定的な覆滅を認め、価格差・販売形態の相違は覆滅事由として認めなかった。 なお、控訴審において1審被告らが提出した無効の抗弁および公知技術の抗弁の追加主張は、時機に後れた攻撃防御方法として民訴法157条1項および特許法104条の3第2項により却下した。 本判決は、特許法102条2項の適用要件として特許権者自身の実施を要しないことを明らかにした最高裁平成25年2月1日判決の射程を再確認するとともに、共有特許の侵害における損害額算定につき、持分割合一律按分ではなく実施の程度を反映すべきとした点、および不実施共有者については実施料相当額の限度で一部覆滅を認めた点で、共有特許権侵害の損害賠償実務に指針を与えるものといえる。