AI概要
【事案の概要】 被告人は、不動産賃貸事業を営むX株式会社(以下「申告法人」)の代表取締役として同社の業務全般を統括していた者である。被告人は、平成14年頃から平成17年頃にかけて、自身が経営する複数の関係会社の債務を個人資産で代位弁済した結果、これら関係会社が賃貸用として所有していた合計31物件の不動産(以下「本件不動産」)を代物弁済により取得し、自ら所有するに至った。被告人は本件不動産の賃貸管理業務を、関係会社Y株式会社等の名義で行わせ、テナントとの賃貸借契約の決裁、賃料の入金管理、経費の支払等を自ら逐一決裁していた。 被告人は、平成19年頃、弁護士に対し、個人所有不動産の維持管理費や損害賠償責任等のリスクに関する無限責任を回避するため、法人がこれらのリスクを全て引き受ける代わりに不動産を自由に使用収益できるとの内容の契約書案の作成を依頼していた。被告人は、申告法人を含む関係会社の設立・解散を繰り返しながら、本件不動産の賃料収入を各時点で現存する関係会社の所得として税務申告してきた。 被告人は、税理士事務所事務員の丙に申告法人の経理処理を依頼した上で、丙に対し、平成21年12月期から平成23年12月期までの3事業年度にわたり、売上の一部を除外し、架空の固定資産除却損・固定資産売却損・保守管理費を計上し、これらを売上高と相殺するなどの指示を行い、いずれの事業年度も欠損金額がある旨の虚偽過少の法人税確定申告書を作成・提出させ、正規の法人税額合計約10億6004万円(ほ脱所得合計約35億4308万円、ほ脱率100パーセント)を免れたとして、法人税法違反で起訴された。 【争点】 主たる争点は、(1)本件不動産賃貸事業の収益が申告法人に帰属すると認められるか(弁護人は申告法人は実体がなく収益は被告人個人に帰属すると主張)、(2)被告人が丙に対し売上除外等の不正な経理処理の指示を行ったと認められるか(被告人はこれを否認)、の2点である。 【判旨(量刑)】 裁判所はまず、争点(1)について、被告人が本件不動産を自己が唯一の株主・代表取締役である法人にマスターリースし、管理費用や滅失等の危険を負担させる代わりに、本件不動産から生ずる一切の収益を収受する権利を付与した上、当該法人がテナントにサブリースするという事業形態によって、その法人の計算において不動産賃貸業を営むことを意図し、そのように振る舞っていたと推認した。被告人自身、捜査段階では賃料収入が申告法人に帰属することを自認し、起訴直後には申告法人帰属を前提とする修正申告を行っており、これらも同認定と整合的である。弁護人のマスターリース契約不存在の主張、申告法人の実体不存在の主張はいずれも採用できず、本件不動産の賃料収入は申告法人に帰属するものと判断した。 争点(2)についても、丙証言は仕訳日記帳や総勘定元帳に表れた不正な経理処理を自然に説明するものであり、エクセル一覧表への手書き記載、押収された決算書草稿・メモ等の物証と整合すること、被告人が関係会社の入出金に関する決裁権限の一切を有し、Lビル売買契約でも契約直前に代金の相当部分を減価償却可能な建物・設備名目に割り振るなど費用計上を目論む行動をしていたことなどから、十二分に信用できると判断した。よって被告人には各法人税法違反の罪が成立する。 量刑については、ほ脱税額が約10億6004万円に上り同種事案の中でも極めて大きい部類に属すること、ほ脱率が全期間100パーセントであること、売上除外と架空損失計上の相殺処理を組み合わせるなど所得秘匿態様が露骨かつ巧妙で強固な犯意に基づくものであること、税務・会計の基本原則を無視して申告法人の売上全てを意のままにしようとした動機は納税義務をないがしろにするものであることを指摘した。他方、被告人に前科がないこと、86歳と高齢であること、修正申告を行い本税・延滞税・重加算税を納付していることなどを酌量すべき事情としつつ、実刑は免れないとし、さらに申告法人が既に清算結了しており実質的に被告人が利得したものとみられることから、この種事案が経済的に見合わないことを知らしめるため懲役刑に加え罰金刑を科するのが相当とした。結論として、被告人を懲役4年及び罰金2億4000万円(求刑・懲役5年及び罰金3億円)に処した。